猫
本文約1,100字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
作者の住まい周辺に集まる猫たちとの日々の出来事を綴る。座敷で粗相をした牝猫を郊外へ棄てた経験や、家ダニの被害により愛猫を手放さざるを得なかった過去の記憶が語られる。行儀の悪い猫たちの実態、猫という動物に対する筆者の観察眼を交えつつ、人の顔を忘れがちな自身の記憶力への不安と、愛想のない猫への猫的とも形容できる自己の気質を重ね合わせ、動物としての猫に抱く複雑な印象と憂鬱な心情を描く。
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私の家のりにはいつも猫が五つも六つも集つて來てゐる。中には隣地に棄てられた小さいのが、その儘育つたのも居る。
ある時、野良か餘所の飼かどちらか知れぬが、牝猫が座敷に上つて來て、しきりに媚を呈するので別に追ひやることもせずに置いた。部屋には雜然と古雜誌が積んであつたし、書棚も碌に整理が出來ずごぢやごぢやになつてゐたし、床の間にはその時、ひとから箱書を二つばかり頼まれて掛軸を箱から出してその傍に置いてあつたりして、一口に云ふと雜多雜然といふ形状にあつた。その牝猫がその部屋に來て古雜誌のあたりをしきりに歩いてゐた。妙なことをするとおもつてゐると、床の間に行つた。行つたかとおもつた殆ど瞬間に、掛軸を入れる桐の箱の中に、音をさせて小便をした。そして餘勢で軸の一部分も濡れ、怒るの怒らないのと云つたところでもう間に合はなかつた。私はその牝猫を自動車に乘せて郊外の方に棄てさせた。
五六年前にもなるか、家ダニが蔓延して困つたことがある。家ダニは鼠の幼いのにたかるといふので鼠の巣を片附けさせたが、この家ダニは猫にもたかつた。露西亞猫の三代目かになつてゐたのを飼つてゐたのに、家ダニがたかり、癢いと見えて爪で掻いたりすると血を吸つて赤くなつたのが幾つも落ちた。そこで、この猫は少し惜しかつたけれども、やはり自動車に乘せて郊外に棄てさせた。
それから、もう一つ、これもいい猫であつたがそのころ家ダニがたかつたので、はじめのうちはリゾフオルムなどを微温湯に溶かして、それに浴させてゐたが、どうしても退治が出來ぬので、棄てさせた。この二つは幼い時から育てたので、行儀もおぼえてゐたので惜しかつた。
それから、家のりにゐる猫が入かはり立かはり座敷に上つて來たが、行儀の訓練がなかつたために永續きがしなかつた。そして依然として家のりに住んで居る。