TRENDIA CLASSIC

右門捕物帖

佐々木味津三

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その第三十六番てがらです。

事の起きたのは正月中旬、えりにえってまたやぶ入りの十五日でした。

「えへへ……話せるね、まったく。一月万歳、雪やこんこん、ちくしょうめ、降りやがるなと思ったら、きょうにかぎってこのとおりのぽかぽか天気なんだからね。さあ行きましょ、だんな、出かけますよ」

天下、この日を喜ばぬ者はない。したがって、伝六がおびただしくはめをはずしてやって来たとて、不思議はないのです。

「腹がたつね。こたつはなんです? そのこたつは! 行くんだ、行くんだ。出かけるんですよ」

「お寺参りかえ」

「ああいうことをいうんだからな。正月そうそう縁起でもねえ。きょうはいったいなんの日だと思っているんですかよ。やぶいりじゃねえですか。世間が遊ぶときゃ人並みに遊ばねえと、顔がたたねえんだ。行くんですよ! 浅草へ!」

「へへえ。おまえがな。年じゅうやぶいりをしているようだが、きょうはおまえ、よそ行きのやぶいりかえ」

「おこりますぜ、からかうと! ――ええ、ええ、そうですとも! どうせそうでしょうよ。なにかというと、だんなはそういうふうに薄情にできているんですからね。けれども、物事には気合いというものがあるんだ、気合いというものがね。よしやあっしが年じゅうやぶいり男にできていたにしても、いきましょ、だんな、どうですえと、羽をひろげて飛んできたら、よかろう、いこうぜ、主従は二世三世、かわいいおまえのことだ、――そうまではおせじを使ってくださらねえにしても、もちっとどうにかいい顔をしたらいいじゃござんせんか、いい顔をねえ」

「…………」

「え! だんな! どうですかよ、だんな!」

「…………」

「くやしいな! いかねえんですかい、だんな! え! だんな! どうあっても行かねえというんですかい」

だんだんと声をせりあげながら、だんだんと庭先から顔をせりあげて、ひょいとのぞいてみると、むっつりの名人がおかしなものをこたつの上にひろげて、しきりとのぞいているのです。

半紙一枚に書いた絵図面でした。

ここのところ本郷通り。

ここかど。

こちらへい。

ここかど。

隣、インショウジ。

ここ加州家裏門。

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