右門捕物帖
本文約22,200字 ・ 読了時間 約45分
あらすじ(AIが作成しました)
江戸の番所に務めるむっつり右門は、牛込二十騎町で発生した質屋の息子のかどわかし事件を知り、子分の伝六と共に捜査を開始する。調査を進める中で、右門は紛失した金無垢の豆大黒や古道具屋の存在、そして少年を巡る複雑な因縁を突き止める。この作品は、風変わりな名探偵が持ち前の知恵と独自の手腕で事件の真相を解き明かし、関係者たちを裁きつつ穏便に事態を収拾していく様子を描く捕物帖である。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
1
――その第四番てがらです。
すでにもうご承知のごとく、われわれの親愛なる人気役者は、あれほどの美丈夫でありながら、女のことになると、むしろ憎いほどにも情がこわくて、前回の忍の城下の捕物中でも、はっきりとそのことをお話ししておいたとおり、尋常な女では容易なことに落城いたしませんので、右門を向こうへ回してぬれ場やいろごとを知ろうとするなら、小野小町か巴御前でも再来しないかぎり、とうてい困難のようでございますが、まてば海路のひより――いや、捕物怪奇談でございますから、海路ではなくて怪路のひよりとでもしゃれたほうがいきでしょう。それほどの石部金吉なむっつり右門が、今回の四番てがらにばかりは珍しくも色っぽいところも少少お目にかけることになりましたから、まことに春は価千金、あだやおろそかにはすべからざるもののようです。
ところで、その事件の勃発いたしましたのは、右門がおなじみのおしゃべり屋伝六とともに、前節の忍の城下から江戸へ引き揚げてまいりまして約半月後の六月初めのことでございましたが、普通ならばあのとおり遠い旅先へてごわい大捕物に行ってきたあとでございますから、月の十日や半月ぐらい大手をふって骨休みがもらえますのに、われわれのむっつり右門はどこまでも変わり者の変わり者たるところを発揮いたしまして、べつに疲れたというような顔もせず、すぐとそのあくる日からご番所へ出仕したものでありました。