右門捕物帖
本文約22,500字 ・ 読了時間 約45分
あらすじ(AIが作成しました)
真夏の酷暑の中、むっつり右門のもとに幼い娘が訪れる。その娘と入れ替わりに不審な動きを見せるすり師のくし巻きお由に、右門はあえて協力を仰ぐという意外な駆け引きを仕掛ける。やがて右門は独自の洞察力で事の次第を見抜き、お由の良心に働きかけて更生を促すとともに、過酷な境遇にあった娘の将来を案じて親代わりとして手を差し伸べる。江戸の街を舞台に、変人と呼ばれながらも人情味あふれる捕物と解決を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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今回はその第六番てがらです。
事件の端を発しましたのは、前回のにせ金事件がめでたく大団円となりましてから約半月ほどたってからのことでしたが、半月のちといえばもちろんもう月は変わって、文月七月です。ご承知のごとく、昔は太陰暦でございますから、現今とはちょうどひと月おくれで、だから七月といえば、まさに炎熱のまっさいちゅうです。それがまたどうしたことか目もあてられない酷暑つづきで、そのときのお奉行所お日誌によると、この年炎暑きびしく、相撲取り的にて三人蒸し死んだるものある由、と書かれてありますから、それだけでもどのくらいの暑さだったかが想像がつくことと思いますが、わがむっつり右門とて生身の人間である以上、暑いときはやっぱり人並みに暑いんだから、西日がやっとかげっていくらか涼風の出かかったお組屋敷のぬれ縁ぎわに大あぐらをかきながら、しきりとうちわを使っていると、大いそぎで今お湯をすましたばっかりといったかっこうで、せかせかと裏庭口から姿を見せたものは、例のおしゃべり屋伝六でありました。それというのは、いつまでたっても変人の右門が、もう少しこのほうだけは人並みすぎるほうがいいと思われるに、いっこう、女げをよせつけようとしないものですから、右門のこととなるとむやみと世話をしたがる伝六が、このごろずっとお通いで、朝晩のお勝手を取りしきっているからのことですが、だからわが家のごとく無遠慮に上がってくると、いっぱしの板番になったような顔つきで、ざっくばらんに始めました。
「米びつがけさでからだから、清水屋の小僧が来たらおいいなせえよっていっといたはずですが、まさかお忘れじゃねえでしょうね」
すると、右門という男は、どうもどこまで変わり者だか、すましていったものです。
「ねぼけんない。おらそんなこたあ知らねえよ」
「えッ。ねぼけんないっですって……? あきれちまうな。だんなのおなかにへえる品物ですぜ」