右門捕物帖
本文約21,700字 ・ 読了時間 約44分
あらすじ(AIが作成しました)
山王祭の山車行列で、牛若丸役の若主人が笛を吹こうとした瞬間に悶絶する事件が発生する。現場に残された書き置きから、むっつり右門は背後に潜むにせ金造り一味の存在を察知する。一味の首領と若主人の間に生じた女をめぐる争いや仲間割れを背景に、右門が隠された地下の鋳造所を突き止め、鮮やかに事件を解決へ導く様子を描く。江戸の市井の喧騒を舞台に、名探偵が鋭い洞察力で悪党を追い詰める捕物帖。
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――今回はその五番てがらです。
事の起こりましたのは山王権現、俗に山王さんといわれているあのお祭りのさいちゅうでした。
ご存じのごとく、山王さんのお祭りは、江戸三社祭りと称せられている年中行事のうちの一つで、すなわち深川八幡の八月十五日、神田明神の九月十五日、それから六月十五日のこの山王祭りを合わせて、今もなお三社祭りと称しておりますが、中でも山王権現は江戸っ子たちの産土神ということになっていたものでしたから、いちばん評判でもあり、またいちばん力こぶも入れたお祭りでした。しかし、当時はまだ今の赤坂溜池ではないので、あそこへ移ったのは、この事件の起きたときより約二十年後の承応三年ですから、このときはまだもと山王、すなわち半蔵門外の貝塚に鎮座ましましていたのですが、時代は徳川お三代の名君家光公のご時世であり、島原以来の切支丹宗徒も、長いこと気にかかっていた豊臣の残党も、すでにご紹介したごとく、わがむっつり右門によってほとんど根絶やしにされ、このうえは高砂のうら舟に帆をあげて、四海波おだやかな葵の御代を無事泰平に送ればいいという世の中でしたから、その前景気のすばらしいことすばらしいこと、お祭り好きの江戸っ子たちはいずれも質を八において、威勢のいい兄哥なぞは、そろいのちりめんゆかたをこしらえるために、まちがえて女房を七つ屋へもっていくという騒ぎ――。
ところで当日の山車、屋台の中のおもだったものを点検すると、まず第一に四谷伝馬町は牛若と弁慶に烏万燈の引き物、麹町十一丁目は例のごとく笠鉾で、笠鉾の上には金無垢の烏帽子を着用いたしました女夫猿をあしらい、赤坂今井町は山姥に坂田金時、芝愛宕下町は千羽鶴に塩汲みの引き物、四谷大木戸は鹿島明神の大鯰で、弓町は大弓、鍛冶町は大太刀といったような取り合わせでしたが、それらが例年のごとく神輿に従って朝の五つに地もとを繰り出し、麹町ご門から千代田のご城内へはいって、松原小路を竹橋のご門外へぬけ出ようとするところで、将軍家ご一統がお矢倉にてこれをご上覧あそばさるというならわしでした。