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TORENDIA

右門捕物帖

本文約27,200字 ・ 読了時間 約55分

あらすじ(AIが作成しました)

深夜の江戸、捕物名人・右門の配下である善光寺辰が、庭で黒ねこに追いかけまわされる騒ぎを起こす。辰が人形の髪の毛をくわえた黒ねこを捕獲すると、右門は奇妙な事件の気配を察知する。やがて、亡き娘への供養のために吉原で金を使い果たそうとした親の哀切な物語や、離れ離れになった恋人たちの行方が浮かび上がる。右門は、現場に残された金襴織りの守り袋や女文字の手紙という細やかな手がかりから、二人の居場所を見抜き、見事に事件を解決へ導く。

佐々木味津三

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――前章の化け右門事件で、名人右門の幕下に、新しく善光寺辰なる配下が一枚わき役として加わり、名人、伝六、善光寺辰と、およそ古今に類のない変人ぞろいの捕物陣を敷きまして、いと痛快至極な捕物さばきに及びましたことはすでにご紹介したとおりですが、いよいよそれなる四尺八寸の世にもかわいらしいお公卿さまが幕下となって第二回めの捕物、名人にとっては、ちょうどの十五番てがらです。事の勃発いたしましたのはあれから半月と間のない同じ月の二十六日――しかも、おおかたもう四ツを回った深夜に近い刻限のことでした。古いざれ句にも『ひとり寝が何うれしかろ春の宵』というのがありますが、常人ならば大きにその句のとおりなんですけれども、わが捕物名人のむっつり右門ばかりは、あいもかわらずじれったいほどな品行方正さでしたから、一刻千金もなんのその、ひとり寝をさせるには気のもめる、あの秀麗きわまりない肉体を、深々と郡内の総羽二重夜具に横たえて、とろとろと夢まどやかなお伽の国にはいったのが、いま申しあげたその四ツ下がり――

と――伝六というやつは、まったくいついかなるときであろうと、およそおかまいのないガラッ八ですが、いま夢の国にはいろうとしたその寝入りばなを不意におどろかして、どんどん表戸を破れるほどにたたきながら、けたたましく呼びたてました。

「ちぇッ。あきれるじゃござんせんかッ。気のきいた若い者が、このめでたい春先に、今ごろから寝るって法がありますかッ。一大事が突発したんだから、起きておくんなせえよ! ね、だんな、だんなッ。起きなきゃたたきこわしますぜ」

捨てておいたら、ほんとうに雨戸もたたきこわしかねまじいけんまくでしたから、苦笑いしいしい起きていくと、ガミガミいってやかましく呼びたてたのにかかわらず、どうしたことかふいッとことばをつまらして、目に涙すらもためながら、まじまじと名人の顔を見守っていましたが、おろおろと鼻声になりながら、やにわと意外なことをいいました。

「ね、か、かわいそうなことになったもんじゃござんせんか。善光寺辰の野郎め、どうやら陽気に当てられやがって、気がふれたようですぜ」

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