右門捕物帖
本文約25,900字 ・ 読了時間 約52分
あらすじ(AIが作成しました)
正月七日の朝、江戸の町中でおしゃべり屋の伝六が空の駕籠が放置されている様子を発見する。日本橋からお城の周囲にかけて置かれた七丁の駕籠は、異様な事態を思わせた。むっつり右門がその謎に挑む。右門は駕籠と共に残された七つの橙に隠された意味を見抜き、片思いの成就を願うある女性の呪術的な行為と、それに纏わる事件の真相を明らかにする。捕物帖の枠組みの中で、知恵を働かせて事件を鮮やかに解決する名人の姿を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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その第二十六番てがらです。
物語の起きたのは年改まった正月のそうそう。それも七草がゆのその七日の朝でした。起きても御慶、寝ても御慶の三カ日はとうにすぎたが、なにしろまだめでたいし、松の内はお昼勤めとお許しの出ているその出仕には時刻がまだ少し早いし、朝の間のそのひとときを、ふくふくとこたつに寝そべりながら、むっつり右門のお正月はやっぱりこれじゃといわぬばかりに、そろりそろりとあごをなでては一本、またなでては一本抜いていると、
「へへへ……へへへ」
不意に庭先で、いいようもなく奇怪な声をあげて笑う者があるのです。
「へへへ……へへへ」
笑っておいてからまた、いかにも人を小バカにしたようにやりました。
「へへへ……へへへ」
不審に思って、のっそりと手を伸ばしながら障子をあけてひょいと見ると、
「へえ、おはよう!」
こんなおかしなやつというものもない。かれです。あのおしゃべり屋の伝六なのです。
「なんだよ! 気に入らねえやつだな。朝っぱらから庭先でへへへというやつがあるかい!」
「へへへ。いえ、なにね、なんしろまだめでてえんだ。笑う門には福きたるってえいうからね。めでてえお正月そうそうにがみがみやっちゃいけめえと思って、ちょっと笑ったんですよ。――ところで、大忙しなんだ。ね! ちょっと! じれってえな! むかっ腹がたってくるじゃござんせんか! 起きりゃいいんだ。はええところ起きて、とっととしたくすりゃいいんですよ!」
よくよくのあいきょう者です。正月だから笑わなくちゃいけねえとやったその舌の根のかわかぬうちに、もうがんがんとお株を始めてどなりだしました。
「しゃくにさわるな! ね! ちょっと! あな(事件)なんだ! あななんだ! あごなんぞなでてやにさがっている場合じゃねえんですよ! 江戸八百八町のべたらにね――」
「ウフフ……」
「ウフフたア何がなんです! 人がいっしょうけんめいとほねをおってしゃべっているのに、笑うこたアねえじゃござんせんか。江戸八百八町、のべたらにね――」
「あきれたやつだよ」
「え……?」