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TORENDIA

猫町

本文約10,300字 ・ 読了時間 約21分

あらすじ(AIが作成しました)

方向感覚に欠陥を持つ私は、散歩中に道を誤り、見知らぬ美しい町に迷い込む。そこは、既知の町の風景が反転して見える不思議な空間であった。さらにある時は、猫ばかりが住む奇怪な町を目撃する。三半規管の異常による錯覚と片付けられる現象に直面しながらも、私は自身の体験した非日常的な光景を、理屈を超えた実在として確信し続ける。本作は、日常の裏側に潜む不可解な世界への眼差しを綴る。

萩原朔太郎

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蠅を叩きつぶしたところで、蠅の「物そのもの」は死にはしない。単に蠅の現象をつぶしたばかりだ。――

ショウペンハウエル。 [#改ページ]

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旅への誘いが、次第に私の空想から消えて行った。昔はただそれの表象、汽車や、汽船や、見知らぬ他国の町々やを、イメージするだけでも心が躍った。しかるに過去の経験は、旅が単なる「同一空間における同一事物の移動」にすぎないことを教えてくれた。何処へ行って見ても、同じような人間ばかり住んでおり、同じような村や町やで、同じような単調な生活を繰り返している。田舎のどこの小さな町でも、商人は店先で算盤を弾きながら、終日白っぽい往来を見て暮しているし、官吏は役所の中で煙草を吸い、昼飯の菜のことなど考えながら、来る日も来る日も同じように、味気ない単調な日を暮しながら、次第に年老いて行く人生を眺めている。旅への誘いは、私の疲労した心の影に、とある空地に生えた青桐みたいな、無限の退屈した風景を映像させ、どこでも同一性の方則が反覆している、人間生活への味気ない嫌厭を感じさせるばかりになった。私はもはや、どんな旅にも興味とロマンスをなくしてしまった。

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