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TORENDIA

半七捕物帳

本文約16,600字 ・ 読了時間 約34分

あらすじ(AIが作成しました)

文久元年、日本橋の豪商・河内屋の番頭・忠三郎は、旗本・稲川家から宝物の「狩野探幽の鬼の図」を質として預かり、多額の金を運ぶ。しかし、その夜、忠三郎は雪道で何者かに襲われ、一軸と所持金を奪われる。半七老人は、この事件の背後に潜む贋物の真実と、持ち主である稲川家の隠された企みを解き明かしていく。物語は、横浜で成功したかつての番頭との再会を交え、江戸の風情と共に事件の真相を辿る。

岡本綺堂

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一

その頃、わたしはかなり忙がしい仕事を持っていたので、どうかすると三月も四月も半七老人のところへ御無沙汰することがあった。そうして、ときどき思い出したように、ふらりと訪ねてゆくと老人はいつも同じ笑い顔でわたしを迎えてくれた。

「どうしました。しばらく見えませんね。お仕事の方が忙がしかったんですか。それは結構。若い人が年寄りばかり相手にしているようじゃあいけませんよ。だが、年寄りの身になると、若い人がなんとなく懐かしい。わたくしのところへ出這入りする人で、若い方はあなただけですからね。伜はもう四十で、ときどき孫をつれて来ますが、孫じゃあ又あんまり若過ぎるので。はははははは」

実際、半七老人のところへ出入りするのは、みな彼と同じ年配の老人であるらしかった。その故い友達もだんだんほろびてゆくと、老人がある時さすがにさびしそうに話したこともあった。ところが、ある年の十二月十九日の宵に、わたしは詰まらない菓子折を持って、無沙汰の詫びと歳暮の礼とをかねて赤坂の家をたずねると、老人は二人連れの客を門口へ送り出すところであった。客は身なりのなかなか立派な老人と若い男とで、たがいに丁寧に挨拶して別れた。

「さあ、お上がんなさい」

わたしが入れ代って座敷へ通されると、いつも元気のいい老人が今夜はいっそう元気づいているらしく、わたしの顔を見るとすぐ笑いながら云い出した。

「今そこでお逢いなすった二人連れ、あれは久しい馴染なんですよ。年寄りの方は水原忠三郎という人で、わかい方は息子ですが、なにしろ横浜と東京とかけ離れているもんですから、始終逢うというわけにも行かないんです。それでも向うじゃあ忘れずに、一年に三度や四たびはきっとたずねてくれます。きょうもお歳暮ながら訪ねて来て、昼間からあかりのつくまで話して行きました」

「はあ、横浜の人達ですか。道理で、なかなかしゃれた装をしていると思いましたよ」

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