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TORENDIA

半七捕物帳

本文約15,400字 ・ 読了時間 約31分

あらすじ(AIが作成しました)

明治25年、東京の山の手で通行の女性を襲う傷害事件が多発し、かつて江戸で流行した「槍突き」という凶悪犯罪を想起させる。半七老人は、文化年間から文政年間にかけて江戸の下町を震撼させた、暗闇で往来の人間を無差別に突く辻斬り事件の顛末を語り始める。当時の岡っ引・辻占の七兵衛が、竹藪から槍を切り出し武士を装って犯行を重ねる犯人をいかに追い詰め、その猟奇的な犯行の背景にある因果と正体を解き明かしたかを描く。

岡本綺堂

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一

明治廿五年の春ごろの新聞をみたことのある人たちは記憶しているであろう。麹町の番町をはじめ、本郷、小石川、牛込などの山の手辺で、夜中に通行の女の顔を切るのが流行った。若い婦人が鼻をそがれたり、頬を切られたりするのである。幸いにふた月三月でやんだが、その犯人は遂に捕われずに終った。

その当時のことである。わたしが半七老人をたずねると、老人も新聞の記事でこの残忍な犯罪事件を知っていた。

「犯人はまだ判りませんかね」と、老人は顔をしかめながら云った。

「警察でも随分骨を折っているようですが、なんにも手がかりが無いようです」と、わたしは答えた。「一種の色情狂だろうという説もありますが、なにしろ気ちがいでしょうね」

「まあ、気ちがいでしょうね。昔から髪切り顔切り帯切り、そんなたぐいはいろいろありました。そのなかでも名高いのは槍突きでしたよ」

「槍突き……。槍で人を突くんですか」

「そうです。むやみに突き殺すんです。御承知はありませんか」

「知りません」

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