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TORENDIA

半七捕物帳

本文約15,800字 ・ 読了時間 約32分

あらすじ(AIが作成しました)

文久元年の江戸、末広町の質屋へ覆面の侍二人が押し入り、軍用金として三百両を強要する。彼らは血に染まった異人の生首を証拠として突きつけ、攘夷を名目に町家を脅かす。この事件を知った半七は、異人の首が横浜から流出した舶来の精巧な蝋人形ではないかと見抜く。かつて横浜で人形を盗み出した勝蔵と寅吉の仕業であることを突き止め、事件の真相を解明していく過程を描く捕物帳の作品。

岡本綺堂

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一

文久元年三月十七日の夕六ツ頃であった。半七が用達から帰って来て、女房のお仙と差し向いで夕飯をくっていると、妹のお粂がたずねて来た。お粂は文字房という常磐津の師匠で、母と共に外神田の明神下に暮らしていることはすでに紹介した。

「いい陽気になりました」と、お粂はまだ白い歯をみせて笑いながら会釈した。「姉さん。今年はもうお花見に行って……」

「いいえ、どこへも……」と、お仙も笑いながら答えた。「なにしろ、内の人が忙がしいもんだから、あたしもやっぱり出る暇がなくってね」

「兄さんもまだ……」

「この御時節に、のんきなお花見なんぞしていられるものか。からだが二つあっても足りねえくらいだ」と、半七は云った。「お花見の手拭きや日傘をかつぎ込んで来ても、ことしは御免だよ」

「あら、気が早い。そんなことで来たんじゃないのよ」と、お粂は少しまじめになった。「兄さん、ゆうべの末広町の一件をもう知っているの」

「末広町……。なんだ、ぼやか」

「冗談じゃあない。ぼやぐらいをわざわざ御注進に駈けつけて来るもんですか。じゃあ、やっぱり知らないのね。燈台下暗しとか云って自分の縄張り内のことを……」

「ゆうべのことなら、もうおれの耳にはいっている筈だが……。ほんとうに何だ」と、半七も少しまじめになって向き直った。

「それを話す前に、実はね、兄さん。この二十一日に飛鳥山へお花見に行こうと思っているんです。なんだか世間がそうぞうしいから、いっそ今年はお見あわせにしようかと云っていたんですけれど、やっぱり若い衆たちが納まらないので、いつもの通り押し出すことになったんです。向島はこのごろ酔っ払いの浪人の素破抜きが多いというから、すこし遠くっても飛鳥山の方がよかろうというので、子供たちや何かで三十人ばかりは揃ったんですが、なるたけ一人でも多い方が景気がいいから、なんとか都合がつくなら姉さんにも……」

「なんだ、なんだ。お花見はいけねえと初めっから云っているじゃあねえか。それよりも、その末広町の一件というのは何だよ」

「だから、兄さん」と、お粂は甘えるように云った。

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