TRENDIA CLASSIC

ふるさと

漢那浪笛

1 / 1

無言

常によく見る女なれど、

心の欲を云ひいでむ、

また、語るべき機会もなく、

胸もどかしく、過ぎゆくか。

実にも二人がその中は、

砕けちりしく花硝子――

夕日の国の寂寥に、

絡みて沈む香の色。

せめては夢にその女と、

微笑つくる嬉れしさを、

ふかき思ひに抱きしめ、

無言の恋をくちづけむかな。

移香

ながき黒髪のその中に、

あやしく匂ふまなざしの、

たゆたひつゝもしなやかに、

見つむる色の、不思議さよ。

花毛氈の草のへに、

彩羽うちふる、楽の譜か、

姿すゞしく、移香の、

やをら心にしみいりて、

愛の泉にゆあみする、

新らしき、吾が酔ひごゝち。

真昼

子守唄、静かにうかび、

平安の木かげの夢を

ゆりさます、真昼のまひる。

吾れは今、椰子の実こぼる

南の、森をしたひて

草にふし、豆の葉とりて、

恋愛の、一つにもゆる

唇に、曲折りかへし、

若かき日の、心うたひぬ。

屠牛

嘯き吼ゆる黄牛よ、

目路にかゞなふ、屠殺場を

知るやしらずや、あな哀れ、

ものおぞましき足どりに、

牧場の草を、いでたちぬ。

漢那浪笛の他の作品