TRENDIA CLASSIC

ネオン横丁殺人事件

海野十三

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近頃での一番さむい夜だった。

暦のうちでは、まだ秋のなかに数えられる日だったけれど、太陽の黒点のせいでもあろうか、寒暖計の水銀柱はグンと下の方へ縮[#ルビの「ちぢ」は底本では「ちじ」]んでしまい、その夜更け、戸外に或いは立ち番をし、或いは黙々として歩行し、或いは軒下に睡りかけていた連中の誰も彼もは、公平にたてつづけの嚔を発し、

「ウウウン、今夜は莫迦に冷えやがる」

といったような意味の独言を吐いたのだった。

猟奇趣味が高じて道楽に素人探偵をやっているという変り種の青年理学士、帆村荘六君も、丁度この戸外組の一人だった。彼は今、午前三時半における新宿のブロードウェイの入口にさしかかったところである。

大東京の心臓がここに埋まっていると謂われる繁栄の新宿街も、この時間には、まるで湖の底に沈んだ廃都のような感があった。グロテスクな装飾をもった背の高い建物は、煤色の夜霧のなかに、ブルブル震えながら立ち並んでいた。ずっと向うの十字路には、架空式の強い燭力の電灯が一つ、消しわすれたように點いていて、そのまわりだけを氷山のように白くパッと照しだしていた。

アスファルトの舗道に、凍りつきそうな靴を、とられまいとして、もぐような足どりの帆村荘六だった。

「鐘わァ鳴ァる、鐘わァ鳴ァるゥ。マロニィエのオ……」

どうやら彼はいい気持でいるらしい。傍へよってみると、ジョニー・ウォーカーの香がプンプンすることであろう。どこから今時分でてきたのか知らないが、多分代々木あたりの友人の宅での徹夜麻雀の席から、例の病で真夜中の街へ滑りだしたものであろう。

身体がヨロヨロと横へ傾いた拍子に、灯のついていない街灯の鉄柱がブーンと向うから飛んできたように思った。こいつは奇怪なりと、やッとそいつを両腕でうけとめたが、ゴツリと鈍い音がして頭部をぶっつけてしまった。その拍子に正気にかえった。

「おお、つめたい」

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