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TORENDIA

暗号音盤事件

本文約11,500字 ・ 読了時間 約23分

あらすじ(AIが作成しました)

リスボンに滞在する密偵の白木豹二と語り手は、連合軍の重要機密である時限暗号の鍵を探すべく、中立国の国際島であるゼルシー島へ向かう。ドイツ軍も所在を突き止められずにいたその鍵は、島にあるメントール侯爵の荒廃した城塞に隠されていた。二人は激しい銃撃戦の最中、城塞内にある蓄音機と音叉の組み合わせが暗号信号を発することを見抜く。二人は苦境を脱し、奪取した音盤を手に重大任務の完遂を図る。

海野十三

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国際都市

私たちは、暫くの間リスボンに滞在することになった。

私の連れというのは、例の有名な勇猛密偵の白木豹二のことだ。

リスボンは、ポルトガルの首都だ。そのころリスボンは、欧州に於ける唯一つの国際都市の観があった。この国は英米側に立つのでもなく、日本、ドイツ、イタリヤの枢軸国側に加わっているのでもなく、完全な中立国であった。だから、リスボンの町は、いわゆる呉越同舟というやつで、ドイツ人やイタリヤ人が闊歩しているその向うから、イギリス人やアメリカ人や、それからソ連人までが、安心し切った顔で、ぶらぶらこっちへ歩いて来てはすれちがうという珍風景が、至るところで見られた。

だから私たちも、ここにいる間は別に中国人やベトナム人を装う必要なく、わたし達は、日本人だぞと大ぴらに本国の国籍を表明していて一向さしつかえないのであった。私は、久方振りのこうした安楽した気持におちついたので、願わくば、今二三月もこの土地で静養したいものだと、ふとそんな贅沢な心が芽生えてくるのだった。その贅沢心を、或る日白木豹二が、一撃のもとに打ち壊してしまった。彼はその前夜から宿を明け放しであったが、正午ごろになって、ふらりと私の部屋にとびこんできて、オーバーもぬがず、ステッキをふりながら、常になく、はあはあと息せき切っていうことには、

「おい、日本人の名誉にかかわることが起ったんだ。われわれは今夜八時に、ウィード飛行場から出発だぞ」

突拍子もない話である。日本人の名誉に拘るとはいかなる事件が起きたのか、私には皆目呑こめない。

「何が日本人の名誉にかかわるんだい」

私は、安楽椅子に腰を深く下ろしたまま、ウェルスの小説本の続きを読みながら、たずねた。

「それは、こうだ。ええと、どういったらいいかなあ」と、白木は、妙に考え込んだ。

「そうだ。つまり、敵性国イギリスの息の根を徹底的に止めちまうことについて、なんだ。かの三国同盟の精神の故であるは勿論のこと、我々日本の当面の敵としてだ。ところで、その徹底的――いいか徹底的だぞ、徹底的に息の根を止めるには、われわれが出馬しないと、どうしても駄目なんだ。だから今夜出発だ。どうだ分ったろう」

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