TRENDIA CLASSIC

恐しき通夜

海野十三

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「一体どうしたというんだろう。大変に遅いじゃないか」

眉を顰めて、吐きだすように云ったのは、赭ら顔の、でっぷり肥った川波船二大尉だった。窓の外は真暗で、陰鬱な冷気がヒシヒシと、薄い窓硝子をとおして、忍びこんでくるのが感じられた。

「ほう、もう八時に二分しか無いね。先生、また女の患者にでも掴ってんのじゃないか」

腕時計の硝子蓋を、白い実験着の袖で、ちょいと丸く拭いをかけて、そう皮肉ったのは白皙[#底本では「白晢」]長身の理学士星宮羊吾だった。

これは第三航空試験所の一部、室内には二人の外誰も見えない。だがこの二十坪ばかりの実験室には、所も狭いほど、大きな試験台や、金具がピカピカ光る複雑な測定器や、頑丈な鉄の枠に囲れた電気機械などが押しならんでいて、四面の鼠色の壁体の上には、妖怪の行列をみるようなグロテスク極まる大きい影が、匍いのぼっているのだった。

「キ、キ、キ、キキキッ」

ああ厭な鳴き声だ。

ホト、ホトと、入口の重い扉の叩かれる音。二人は、顔を見合わせた。

クルクルと把手の廻る音がして、扉がしずかに開く。そのあとから、ソッと顔が出た。

色の浅ぐろい、苦味の走ったキリリとした顔の持ち主――大蘆原軍医だった。

室内の先客である川波大尉と星宮理学士との二人が、同時にハアーッと溜息をつくと、同時に言葉をかけた。

「遅いじゃないか。どうしたのか」と大尉。

「あまり静かに入ってきたので、また気が変な女でもやってきたのかと思ったよ。ハッハッハッ」と星宮理学士が、作ったような笑い方をした。

「いや、遅くなった。患者が来たもんで(と、『患者』という言葉に力を入れて発音しながら)手間がとれちまった。だが、お詫びの印に、お土産を持ってきたよ、ほら……」

そういって大蘆原軍医は、入口のところで何やら笊の中に盛りあがった真黒なものを、さしあげてみせた。

「何じゃ、それは……」

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