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TORENDIA

ゴールデン・バット事件

本文約22,800字 ・ 読了時間 約46分

あらすじ(AIが作成しました)

ある夜、探偵・帆村荘六と語り手は、場末のアパートで凄惨な事件に遭遇する。室内には重傷を負って倒れた男・金がおり、逃走を図る不審な男が帆村に取り押さえられた。事件後、海原力三が逮捕され事件は表面上解決するが、語り手と帆村は真相に疑念を抱き続ける。カフェ「ゴールデン・バット」の女給たちや丘田医師を巡り、魔薬ヘロインが引き起こした影の犯罪と、複雑に絡み合う人間模様の深淵へと探偵が迫る。

海野十三

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あの夜更、どうしてあの寂しい裏街を歩いていたのかと訊かれると、私はすこし顔が赭くなるのだ。

兎に角、あれは省線の駅の近所まで出て、円タクを拾うつもりで歩いていたのだった。連れが一人あった。帆村荘六なる男である。――例の素人探偵の帆村氏だった。

「君の好きらしい少女は、いつの間にやら居なくなったじゃないか」と帆村が云った。

「うむ――」

私は丁度そのとき、道を歩きながら、その少女のことを胸に描いていたところだったので、ハッとした。あの薔薇の蕾のように愛らしい少女を、帆村に紹介かたがた引張りだした今夜の仕儀だった。それはこの場末の町にある一軒のカフェの女だった。カフェの女とは云いながら、カフェとは似合わぬ姫君のように臈たけた少女だった。

そのカフェは、名前をゴールデン・バットという。入口に例の雌だか雄だか解らない二匹の蝙蝠が上下になって、ネオンサインで描き出してあった。一寸見たところでは、薄汚い極くありふれたカフェではあったが、私は何ということなく、最初に飛びこんだ夜から気に入ったのだった。それは一ヶ月も前のことだったろう。そのときは私一人だったのだが、その折のことはいずれ話さねばならぬから、後に譲るとして置いて、さて――

「今夜はコンディションが悪かったよ」と私は、半分は照れかくしに云った。

「そうでも無いさ。大いに面白かった」

「それにもう一人、君に是非紹介したいと思っていた女も休んでいやがってネ」

「うん、うん、君江――という女だネ」

「そうだ、君江だ。こいつと来たら、およそチェリーとは逆数的人物でネ」

「チェリーというのかい、あのミツ豆みたいな子は……」

「ミツ豆? ミツ豆はどうかと思うナ」(あわれ吾が薔薇の蕾よ)――

「え?」

「イヤ其の君江というのくらい、性能優れた女性はいないよ。その熱情といい、その魅力といい、更にその能力に於ては、世界一かも知れんぞ。生きているモナリザというのは、正にあの君江のことだ」

と私は、暗がりをもっけの幸いにして、自分でも歯の浮くような饒舌をふるった。

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