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TORENDIA

柿色の紙風船

本文約13,900字 ・ 読了時間 約28分

あらすじ(AIが作成しました)

病院の寝台で痔の治療中だった男は、肛門に差し込まれた高価なラジウムを隠し持ち、病院から脱出する。男はその後刑務所へ収監されるが、ラジウムは密かに持ち込み、共に過ごす。出獄が近づく中、男は共謀していた男がラジウムを盗み出したことを悟る。男は出獄したその共謀者を連れ去り、目的を果たした後、ラジウムを手に日本を去る準備をする過程を描く。

海野十三

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「おや、ここに寝ていた患者さんは?」

と林檎のように血色のいい看護婦が叫んだ。彼女の突っ立っている前には、一つの空ッぽの寝台があった。

「ねえ、あんた。知らない?」

彼女は、手近に居た青ン膨れの看護婦に訊いた。

「あーら、あたし知らないわよ」

といって編物の手を停めると、グシャグシャにシーツの乱れているその寝台の上を見た。

「あーら、本当だ。居ないわネ」

「ど、どこへ行ったんでしょうネ」

「ご不浄へ行ったんじゃないこと」

「ああ、ご不浄へネ。そうかしら……でも変ね。この方、ご不浄へ行っちゃいけないことになってんのよ」

「まあどうして?」

「どうしてといってネ、この方、つまり……あれなのよ、痔が悪いんでしょ。それでラジウムで灼いているんですわ。判るでしょう。つまり肛門にラジウムを差し込んであるんだから、ご不浄へは行っちゃいけないのよ」

「治療中だからなのねェ」

「それもそうだけれどサ、もし用を足している間に、下に落ちてしまうと、あのラジウムは小さいから、どこへ行ったか解らなくなる虞れがあるでしょう」

「そうね。ラジウムて随分高価いんでしょ」

「ええ。婦長さんが云ってたわ。あの鉛筆の芯ほどの太さで僅か一センチほどの長さなのが、時価五六万円もするですって。ああ大変、あれが無くなっちゃ大変だわ。あたし、ご不浄へ行って探してみるわ。だけどもし万一見付からなかったら、あたし、どうしたらいいでしょうネ」

「そんなことよか、早く行って探していらっしゃいよ」

「そうね。ああ、大変!」

林檎のように顔色の良かった看護婦も、俄かに青森産のそれのように蒼味を加えて、アタフタと室外へ出ていった。

だが彼女は、出ていったと思ったら、五分間と経たないうちに、もう引返して来た。引返して来たというより、むしろ飛び込んで来たという方が当っていた。その顔色と云えばまったく血の気もなく蒼褪めて――。

「ああーら、どこにもあの人、居ないわ。あたし、どうしましょう。ああーッ」

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