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TORENDIA

半七捕物帳

本文約20,600字 ・ 読了時間 約42分

あらすじ(AIが作成しました)

江戸時代、小石川茗荷谷の縛られ地蔵で知られる林泉寺の近く、第六天町にある高源寺でも新たに縛られ地蔵が出現し、参詣客で賑わう。しかしその後、この地蔵が夜な夜な踊り出すという怪奇な噂が立ち、さらに寺に関わる者たちの周辺で不可解な事件が立て続けに起こる。捕物名人の半七老人は、これらの噂の裏にある寺院の住職や弟子、石屋らが抱える秘密と事件の真相を追い始める。

岡本綺堂

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一

ある時、半七老人をたずねると、老人は私に訊いた。

「あなたに伺ったら判るだろうと思うのですが、几董という俳諧師はどんな人ですね」

時は日清戦争後で、ホトトギス一派その他の新俳句勃興の時代であたから、わたしもいささかその心得はある。几董を訊かれて、わたしはすぐに答えた。彼は蕪村の高弟で、三代目夜半亭を継いだ知名の俳人であると説明すると、老人はうなずいた。

「そうですか。実はこのあいだ或る所へ行きましたら、そこへ書画屋が来ていて、几董の短冊というのを見せていました。わたくしは俳諧の事なぞはぼんくらで、いっさい判らないのですが、その短冊の句だけは覚えています」

「なんという句でした」

「ええと……、誰が願ぞ地蔵縛りし藤の花……。そんな句がありますかえ」

「あります。たしかに几董の句で、井華集にも出ています。おもしろい句ですね」

「わたくしのような素人にも面白いと思われました」と、老人はほほえんだ。「縛られ地蔵を詠んだ句でしょうが、俳諧だから風流に藤の花と云ったので、藤蔓で縛るなぞはめったに無い。みんな荒縄で幾重にも厳重に引っくくるのだから、地蔵さまも遣り切れません。なにかの願掛けをするものは、その地蔵さまを縛って置いて、願が叶えば縄を解くというわけですから、繁昌する地蔵さまは年百年じゅう縛られていなければなりません。それが仏の利生方便、まことに有難いところだと申します」

「どの地蔵さまを縛ってもいいんですか」

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