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TORENDIA

獄中の女より男に

本文約5,700字 ・ 読了時間 約12分

あらすじ(AIが作成しました)

獄中の女より男に、投獄された主人公が面会に訪れない恋人へ宛てた手紙を綴る。胎児を堕胎したことへの責任観念と、法廷で裁判官に対して自らの思想を説いた経緯を語る。厳しい環境下で、恋人に対して自身の身を案じることなく、日々の仕事に専念し強く生き抜くよう切々と訴えかけ、互いの絆を確認し合う。

原田皐月

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🎧 獄中の女より男に / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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一

私には暗い/\日許り続いて居ます。もう幾日経つたのか忘れて了ひました。此処に斯うして居ると堪らなく世の中が恋しくなります。貴方の傍が……貴方の傍が……貴方はあのテーブルの上でお仕事をして被入るでせう? 一輪ざしの草花がもうぼろ/\に枯れたらうなんて昨夕も考へましたの。そして貴方は其ぼろ/\の花を矢張り捨てないで眺めて居て下さるんだと思つたりしてましたの。妙な事迄考へたんですよ。貴方がね、毎晩私のあのつぎだらけの寝巻を抱いて寝て被入るのだなんて。そして私の考へてる事が皆事実の様な気がするんですの。私にちやんとそれが見える様な、私が知り抜いて確かな事実の様な気迄するんですの。恁手紙を書いたら貴方はお泣きになる? 泣いて下さいね。そして私が恁に苦しんで居る為だけでも貴方は一生懸命貴方のお仕事をして下さいね。私はほんとうに心配して居ますの。貴方が此事の為に動揺して苦しんで被入りはしないかと思つて。私の考は何が来ても動かないのですし、法律は法律の極め通り進行するでせうしなる様になるのですから少しも心配はないのですが、若し貴方が彼の時の約束に背いて私の苦痛を半分助け様なんて被入りはしないかとそれ許りが心配なのですの。離れて居ては貴方のお心迄が分らなくなつて了ふ。若し貴方が其お心持から又この暗い世界へ私と同じ様に身を沈めてお了ひになつたらそしたら貴方が死ぬ許りか私も死ぬのですもの。くどい様ですけど此度の事の責任は全部私に任せて下さいね。そして貴方はお仕事の方丈けを専心遣つて下さいね。私は貴方の事許りを考へて優しい女らしい事を並べたてゝ、只貴方を泣かすのではないんですの。いつか御相談しました様にさうして下されば貴方のお仕事の中で私も活きて行かれるんですもの。私を憐んで下さるならどうぞ貴方のお仕事を可愛がつて下さい。そして私の事も可愛がつて下さい。そして私の寝間着を抱いて下さい。私の着物でも私のお茶碗でも私のお箸でも私の櫛でも私の白粉でも私の私の何でもをキツスしてやつて下さい。あゝ私は此処に居てもそれが皆判ります。

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