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TORENDIA

嘘

本文約8,300字 ・ 読了時間 約17分

あらすじ(AIが作成しました)

焼け出されて帰郷した「私」に対し、同級生の名誉職の男が女の嘘について語る。大雪の夜、脱走兵として軍から追われる遠縁の圭吾をかくまう妻の冷徹な嘘と、その言動に翻弄された自身の経験を回想する。男は女性の不気味なほどの平気さに恐れを抱き、人間への不信感を募らせる。本作は、戦時下の閉鎖的な田舎町を舞台に、男女の心理の食い違いと人の内面に潜む複雑な嘘を、ある秘話を通して描き出している。

太宰治

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「戦争が終ったら、こんどはまた急に何々主義だの、何々主義だの、あさましく騒ぎまわって、演説なんかしているけれども、私は何一つ信用できない気持です。主義も、思想も、へったくれも要らない。男は嘘をつく事をやめて、女は慾を捨てたら、それでもう日本の新しい建設が出来ると思う。」

私は焼け出されて津軽の生家の居候になり、鬱々として楽しまず、ひょっこり訪ねて来た小学時代の同級生でいまはこの町の名誉職の人に向って、そのような八つ当りの愚論を吐いた。名誉職は笑って、

「いや、ごもっとも。しかし、それは、逆じゃありませんか。男が慾を捨て、女が嘘をつく事をやめる、とこう来なくてはいけません。」といやにはっきり反対する。

私はたじろぎ、

「そりゃまた、なぜです。」

「まあ、どっちでも、同じ様なものですが、しかし、女の嘘は凄いものです。私はことしの正月、いやもう、身の毛もよだつような思いをしました。それ以来、私は、てんで女というものを信用しなくなりました。うちの女房なんか、あんな薄汚い婆でも、あれで案外、ほかに男をこしらえているかも知れない。いや、それは本当に、わからないものですよ。」と笑わずに言って、次のように田舎の秘話を語り聞かせてくれた。以下「私」というのは、その当年三十七歳の名誉職御自身の事である。

今だから、こんな話も公開できるのですが、当時はそれこそ極秘の事件で、この町でこの事件に就いて多少でも知っていたのは、ここの警察署長と(この署長さんは、それから間もなく転任になりましたが、いい人でした)それから、この私と、もうそれくらいのものでした。

ことしのお正月は、日本全国どこでもそのようでしたが、この地方も何十年振りかの大雪で、往来の電線に手がとどきそうになるほど雪が積り、庭木はへし折られ、塀は押し倒され、またぺしゃんこに潰された家などもあり、ほとんど大洪水みたいな被害で、連日の猛吹雪のため、このあたり一帯の交通が二十日も全くと絶えてしまいました。その頃の事です。

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