本文へ移動
TORENDIA

私の書斎

本文約2,900字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

京都郊外に構えた四畳半、六畳、十畳からなる書斎で、著者は終日読書と執筆に明け暮れる。内外の哲学、社会問題、日本研究や古美術の文献を蒐集し、狭い室内は所狭しと本に埋め尽くされている。雑誌や新聞を含め膨大な資料を管理する一方、家計を顧みずに書物を買い求める自らの習性を「困った病気」と称し、日々の探求に没頭する生活と、それを取り巻く日常の苦心や家族との関わりを綴る。

土田杏村

速度
🎧 私の書斎 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 4

標題だけは書いたが、さて何を書いて見ようといふ案もない。ただ自分も一介の読書生として、終日この書斎の中に籠居してゐるとでも書けばよいのであらうか。

私の書斎、先づ大いさを言へば、四畳半、六畳、十畳の三室から出来てゐる私の家――といつても野の中の極めて小さいものだが、その全面積の約半ばが私の書斎だといふ訳である。本来この家を建てる時に私は京都の郊外もうんと離れたところに、他から読書執筆の妨げを受けないやうにといふことを考へてゐたのだ。随つて書斎はまた家の人達の住んでゐる処から話声の聞えない処へと選んで別構へにして建てた。始め二室から出来た洋館だつたが昨年十畳一室を増築した。ベッドをここへ置いて、今では終日をその中に籠居してゐる。桜井祐男君の拙宅への訪問記を見ると、「ブリキ屋根が見える」と書いてあるが、ブリキではなくて浅野スレートの屋根なのだ。もう一つ序でに言ふと桜井君は田の中に小さな雑木林があつてその中に拙宅が建つてゐるやうに言つてあつたが、これも雑木林ではなく、後で植ゑた拙宅の庭木なのだ。ただ植木師などを入れないで伸び放題にしてあるものだから雑木林にして了はれる。他の某君の訪問記には、病み上りの頭髪のやうだと書いてあつたが、いかにもその通りである。

書斎の中には書物が雑然と置かれてゐる。最初私は四畳半を応接室に使つてゐたのだが、書物の置場に窮するとそんな悠長なことは言つてゐられない。ここには書架を二つ置き、周囲の壁には出来るだけ多くの棚をつくつて全然の書庫にして了つた。下にも雑然と書物を置いてある。六畳の室は書斎にも応接室にも書庫にも使つてゐる。狭いこと甚だしい。十畳の室はベッドを置いて全く私の居室だ。近来はこの室をおもに書斎として使つてゐる。書物はどの室にも詰まるだけ詰まつたので、次第に廊下を侵蝕し、他の居室を侵蝕し、寝室の床の間の上まで書物の山積となつて了つた。起きるも寝るも書物の中に埋まつてゐるのは愉快なことでなく、さつぱりした一室を欲しいと思つてゐるが、そんな贅沢などはとても言へないのである。

土田杏村の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本