心の芽
本文約4,900字 ・ 読了時間 約10分
あらすじ(AIが作成しました)
かきの木に止まった美しい鳥を捕らえようとして木から落ち、右脚を負傷した少年正吉は、不具となりながらも縫い箔屋で働く。やがて戦争を経て転業を余儀なくされた彼は、元主人から民主主義や投票の意義を説かれ、社会の一員としての自覚を持つ。ある日、選挙の列に並ぶ中で自然の美しさと自身の存在の尊さに気づいた正吉は、それまで行っていたごまかしの細工に恥じ入り、真の芸術心に目覚めて自らの絵で人々を癒やす道を見出す。
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ある日、どこからか、きれいな鳥が飛んできて、木にとまりました。腹のあたりは黄色く、頭が紅く、長い尾がありました。野鳥のように、すばしこくなく、人間になれているらしく見えるのは、たぶん飼われていたのが、かごを逃げ出したのかもしれません。
みんなが、大騒ぎをしました。大人も、子供も、どうしたら捕らえられようかと、木の近くへ集まりました。正吉は、胸がどきどきして、自分が捕らえようと、心にきめると、みんなにむかって、
「あの鳥は、おれのものだ。わあわあいっちゃいけない。」といって、彼は、すぐ鳥のとまっているかきの木に登りはじめました。
鳥は、そんなことにまったく気づかず、さものんきそうに、あちこちと景色をながめていました。見ている人たちの中には、うまくつかまればいいがと思ったり、あるいは、早く逃げればいいのにと思ったり、てんでになにか考えていたであろうが、とにかくだまって、正吉のすることを見まもっていたのです。
正吉は、木の幹の蔭で、なるたけ自分のからだを隠すようにして、音をたてずに、ねこがねずみをねらうときのようすそっくりで、すこしずつ鳥にしのびよって、もう一息というところまで達しました。そこで考えていた彼は、おそるおそる手をさしのべたのでした。
「うまくいったぞ!」と、見ている人の中から、いったものもあります。
しかし、あまり鳥が美しいので、つかまえる手がにぶったか、指先が、尾にふれんとした瞬間、急に鳥は、おどろいて飛び立ちました。そのとき、正吉のからだも、いっしょに木からはなれて、空でもんどり打ち、地上へと落ちました。
「鳥には羽があるが、人間にはないものを、なんで、手づかみができるものか。」と、こんどは、見ていた人々は、口々にののしりながら、気を失った子供のところへ駆けつけました。そして、だき起こして介抱するやら、親たちを呼びにいくやら、あわてふためいたのであります。