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「い」とあなたがいうと
「それから」と母様は仰言った。
「ろ」
「それから」
「は」
あなたは母様の膝に抱っこされて居た。そとでは凩が恐しく吼え狂うので、地上のありとあらゆる草も木も悲しげに泣き叫んでいる。
その時あなたは慄えながら、母様の頸へしっかりとしがみつくのでした。
凩が凄じく吼え狂うと、洋燈の光が明るくなって、卓の上の林檎はいよいよ紅く暖炉の火はだんだん暖くなった。
あなたの膝の上には絵本が置かれ、悲しい語のところが開かれてあった。それを母様は読んで下さる。――それはもうまえに百遍も読んで下さった物語であった。――その時の母様の顔色の眼は沈んで、声は低く悲しかった。あなたは呼吸をころして一心に聴入るのでした。
誰ぞ、駒鳥を殺せしは?
雀はいいぬ、われこそ! と
わがこの弓と矢をもちて
わが駒鳥を殺しけり。
これがあなたの虐殺者というものを聴知った最初であった。
あなたはこの恐ろしい光景を残りなく胸に描き得た。この憎むべき矢に射貫かれた美しい暖い紅の胸を、この刺客の手に仆れた憐れな柔かい小鳥の骸を。
咽喉が急に塞がって、涙があなたの眼に浮かぶ。一滴また一滴、それが頬を伝って流れては、熱いしかも悲しい滴りが、絵本のうえに雨だれのように落ちた。
「母様、駒鳥は可哀そうねエ」
「坊や、泣くんじゃないよ」
「でも母様、雀が……雀が……こ……殺しちゃったんだもの」
「ああ、そうなの。雀が殺してしまったのよ。本にはそう書いてありますけれど、坊やは聞いたことがありますか」
「何あに」
絵本は、その悲しい話の半面を語ったに過ぎなかった。他の半面は母様が知っていなさった。駒鳥は殺された。殺されて冷い血汐のなかに横わったことは事実であった。けれども慈悲深い死の翼あるその矢のために、駒鳥は正直な鳥の、常に行くべき処へ行った。そしてそこで――ああ嬉しい――彼は先へ行って居た自分の最愛の妻と子にそこで逢ったのでした。
「駒鳥の親子は、今はみんなそこに居るんですよ。この世に住んだうちでは一番しあわせな駒鳥なんだよ」と母様はあなたの涙に濡れた頬にキッスしながら仰言った。