TRENDIA CLASSIC

地軸作戦

海野十三

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某大国宰相の特使だと称する人物が、このたび金博士の許にやってきた。

金博士は、当時香港の別荘に起き伏ししているのである。

別荘と申しても、これは熱海の海岸などによくある竹の垣を結いめぐらして、湯槽の中から垣ごしに三原山の噴煙が見えようというようなオープンなものではなく、例によって香港の地下三百メートルに設けられたる穴倉の中にその別荘があるのであった。

某大国の特使閣下を、金博士の許へ案内したのは誰あろう、かくいうわたくしであった。その当時、世界通信は、金博士が生死不明なること三十日に及び、まず死亡したものと噂されていたのである。従って、博士に会いたくて焦げつきそうな焦燥を感じていた某大国の特使閣下も、この噂に突き当られ、落胆のあまり今にもぶったおれそうな蒼い顔色でもって、上海の大路小路をうろうろしていたのである。しかし特使閣下は、幸運だった。わたくしという者に、ぱったり行き合ったからである。

「やあやあそこに渡らせられるは……」

と、わたくしがものをいいかけるうちにも、かの特使閣下はわたくしの姿を認め、手に持っていたステッキもウォッカの壜も、鋪道の上に華々しく放り出して、ものも得いわず、いきなりわたくしの小さい身体に抱きついたものである。それは大熊が郵便函を抱えた恰好によく似ていたそうな。通り合わせたわたくしの妹が、後に語ったところによると……。

「何万ルーブルでも出すよ、君。金博士が生きているということを証明してくれればね」

と、特使閣下は、腕の中のわたくしを、ぎゅっぎゅっと締めつけながら、声をひきつらせていったことである。

「それは有難う。では九万ルーブル、いただきましょう、ネルスキー」

「えっ、君は手を出したね。じゃあ、金博士はまだ生きていたんだね。ウラー、九万ルーブルはやすい。その倍を支払うよ。さあ、銀行まで来たまえ。どうせ君は、金を受取らなきゃ、喋りゃすまいから……」

十八万ルーブルは、相当かさばって、ポケットに入りにくいものだと感じながら、わたくしはぼつぼつネルスキー特使閣下の質問に答えていた。

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