地軸作戦
本文約8,900字 ・ 読了時間 約18分
あらすじ(AIが作成しました)
某大国の特使からシベリアの雪と氷を追放してほしいと依頼された金博士は、地軸を回転させるという途方もない手法でその難題を解決する。しかし、シベリアは瞬く間に灼熱の焦熱地獄と化し、洪水まで引き起こす事態となる。事態を重く見た宰相から再度交渉を命じられた特使は、アルプス山中に作業拠点を移した博士のもとへ急行する。地軸の回転により地球の物理的変化をもたらした博士の真意と、新たな実験に熱中する博士の姿を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
1
某大国宰相の特使だと称する人物が、このたび金博士の許にやってきた。
金博士は、当時香港の別荘に起き伏ししているのである。
別荘と申しても、これは熱海の海岸などによくある竹の垣を結いめぐらして、湯槽の中から垣ごしに三原山の噴煙が見えようというようなオープンなものではなく、例によって香港の地下三百メートルに設けられたる穴倉の中にその別荘があるのであった。
某大国の特使閣下を、金博士の許へ案内したのは誰あろう、かくいうわたくしであった。その当時、世界通信は、金博士が生死不明なること三十日に及び、まず死亡したものと噂されていたのである。従って、博士に会いたくて焦げつきそうな焦燥を感じていた某大国の特使閣下も、この噂に突き当られ、落胆のあまり今にもぶったおれそうな蒼い顔色でもって、上海の大路小路をうろうろしていたのである。しかし特使閣下は、幸運だった。わたくしという者に、ぱったり行き合ったからである。
「やあやあそこに渡らせられるは……」
と、わたくしがものをいいかけるうちにも、かの特使閣下はわたくしの姿を認め、手に持っていたステッキもウォッカの壜も、鋪道の上に華々しく放り出して、ものも得いわず、いきなりわたくしの小さい身体に抱きついたものである。それは大熊が郵便函を抱えた恰好によく似ていたそうな。通り合わせたわたくしの妹が、後に語ったところによると……。
「何万ルーブルでも出すよ、君。金博士が生きているということを証明してくれればね」
と、特使閣下は、腕の中のわたくしを、ぎゅっぎゅっと締めつけながら、声をひきつらせていったことである。
「それは有難う。では九万ルーブル、いただきましょう、ネルスキー」
「えっ、君は手を出したね。じゃあ、金博士はまだ生きていたんだね。ウラー、九万ルーブルはやすい。その倍を支払うよ。さあ、銀行まで来たまえ。どうせ君は、金を受取らなきゃ、喋りゃすまいから……」
十八万ルーブルは、相当かさばって、ポケットに入りにくいものだと感じながら、わたくしはぼつぼつネルスキー特使閣下の質問に答えていた。