火薬船
本文約60,800字 ・ 読了時間 約122分
あらすじ(AIが作成しました)
北緯二十度、東経百十五度を航行中、駆逐艦松風は商船旗を掲げない怪貨物船「平靖号」を発見し追跡する。臨検隊を率いる岸少尉が乗船すると、日本人の水夫竹見太郎八や、両脚を失った船長・淡島虎造が応対し、不審な状況が露呈する。やがて竹見が以前乗船していたノーマ号の船長ノルマンによる計画と、サイゴン港を襲った凄惨な大爆発の真相が浮かび上がる。本作は、海上で繰り広げられる冒険と、怪人たちの陰謀に巻き込まれた人々の姿を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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怪貨物船あらわる!
北緯二十度、東経百十五度。
――というと、そこはちょうど香港を真南に三百五十キロばかりくだった海面であるが、警備中のわが駆逐艦松風は、一せきのあやしい中国船が前方を南西へむかって横ぎっていくのを発見した。
「――貨物船。推定トン数五百トン、船尾に“平靖号”の三字をみとむ……」
と、見張兵は、望遠鏡片手に、大声でどなる。
艦橋には、艦長の姿があらわれた。そしてこれも双眼鏡をぴたりと両眼につけ、蒼茫とくれゆく海面に黒煙をうしろにながくひきながら、全速力で遠ざかりゆくその怪貨物船にじっと注目した。
「商船旗もだしておりませんし、さっきから観察していますと、多分にあやしむべき点があります」
副長が、傍から説明をはさんだ。
艦長は、それを聞いて、双眼鏡をにぎりしめ、ぐっと顎をむこうへつきだした。
「追え!」
命令は下ったのだ。
駆逐艦松風は、まもなく全速力で、怪船のあとをおいかけた。艦首から左右に、雪のような真白な波がたって、さーっと高く後へとぶ。
一体あの怪中国船は、どこの港から出てきたのであろうか。どんな荷をつんで、どこへいくつもりなのであろうか。いま怪船のとっている針路からかんがえると、南シナ海をさらに南西へ下っていくところからみて、目的地はマレー半島でもあるのか。
小さな貨物船は、速力のてんで到底わが駆逐艦の敵ではなかった。ものの十分とたたない間に駆逐艦松風は、怪船においつき、舷と舷とがすれあわんばかりに近づいた。
駆逐艦のヤードに、さっと信号旗がひるがえった。
“停船せよ!”
怪貨物船は、この信号を知らぬかおで、そのまま航走をつづけた。甲板上には、たった一人の船員のすがたも見えない。さっきまでは、そうではなかった。双眼鏡のそこに、たしかに甲板にうごく船員のすがたをみとめたのに。
停船命令を出したのに、怪船がそれを無視してそのまま航走をつづけるとあっては、わが駆逐艦もだまっているわけにはいかない。副砲は、一せいに怪船の方にむけられた。撃ち方はじめの号令が下れば、貨物船はたちまち蜂のすのようになって、撃沈せられるであろう。雨か風か、わが乗組員は唇をきッとむすんで、怪船から眼をはなさない。