太平洋魔城
本文約91,900字 ・ 読了時間 約184分
あらすじ(AIが作成しました)
太平洋上で遭難事件が多発する中、軍令部の原大佐は海洋学者・太刀川時夫に調査を依頼する。ある缶の中に残された血染めの手紙から、巨大な魔物が船を沈めるという衝撃的な事実を知った太刀川は、調査に乗り出す。やがて彼は、太平洋の海底に潜む恐竜型潜水艦を備えた謎の魔城の存在を突き止める。迫り来る危機を阻止するため、太刀川は科学の力をもって巨大な海底要塞へと挑む。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
怪しい空缶
どういうものか、ちかごろしきりと太平洋上がさわがしい。あとからあとへと、いくつもの遭難事件が起るのであった。
このことについて、誰よりもふかい注意をはらっているのは、わが軍令部の太平洋部長であるところの原大佐であった。
その原大佐は、いましも軍令部の一室に、一人の元気な青年と、テーブルをかこんでいるところだった。
「おい太刀川。この次々に起る太平洋上の遭難事件を、君たちはなんとみるか」
力士のような大きな体、柿の実のようないい艶をもった頬、苅りこんだ短い髭、すこし禿げあがった前額、やさしいながらきりりとしまった目鼻だち――と書いてくれば、原大佐がどんなに立派な海軍軍人だか、わかるであろう。
「さあ、――」
太刀川青年は、膝のうえに拳をかためた。なんのことだか、よくわからない。
いま原大佐からきいたところによると、この春、太平洋横断の旅客機が行方不明になってしまった事件がある。それから間もなく、四艘から成るわが鰹船の一隊が、南洋の方に漁にでたまま消息を絶ってしまった。つい最近には、ドイツ汽船が、「救助たのむ」との無電を発したので、附近を航行中であったわが汽船が、時をうつさず現場におもむいたところ、そのドイツ汽船のかげもかたちもなく、狐に化かされたようであったという話がある。
よく考えてみると、なるほどちかごろ太平洋上に、しきりとふしぎな遭難事件がくりかえされている。しかし太刀川には、なぜそんなことが起るのか、よくわからなかった。そもそも彼は、水産講習所を卒業後、学校に残って研究をつづけていた若き海洋学者であって、海の学問については知っているが、原大佐からたずねられたような海の探偵事件について考えてみたことがなかった。
大佐は、眉をぴくりとうごかし、
「いままでに起った事件は、まあそれとしておいて、きょう君にきてもらったわけは、もっと生々しいことだ。ごらん。こういうものがあるのだ」
そういって原大佐は、さっきから話をしながら指さきでいじっていたはげちょろの丸い缶を、太刀川青年の前におしやった。
「はあ。この缶は、一体どうした缶ですか」