本文へ移動
TORENDIA

幽霊船の秘密

本文約30,500字 ・ 読了時間 約62分

あらすじ(AIが作成しました)

戦争の足音が近づく太平洋を航海する貨物船・和島丸の無電室で、突如謎のSOS信号が受信される。信号を辿り現場へ向かった和島丸は、怪潜水艦の攻撃を受けて沈没し、救助を待つこととなる。救助の過程で合流した幽霊船と噂されるボルク号で、乗組員たちは襲撃の真相と死闘の記憶を紐解いていく。本作は、戦時下の海で遭遇した不可解な海難事件と、その背後に潜む正体不明の潜水艦による謀略の影を描く。

海野十三

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 36

南方航路

そのころ太平洋には、眼に見えない妖しい力がうごいているのが感じられた。

妖しい力?

それは一体なんであろうか。

ひろびろとしたまっ青な海が、大きなうねりを見せてなんとなく怒ったような表情をしているのだ。

ときどき、水平線には、一条の煙がかすかにあらわれ、やがてその煙が大きく空にひろがっていくと、その煙の下から一つの船体があらわれる。

それは見る見るどんどんと形が大きくなり、やがてりっぱな一艘の汽船となつて眼の前をとおりすぎる。

黄色の煙突、白い船室、まっ黒な船腹、波の間からちらりとみえる赤い吃水線、すんなりと天にのびた檣――どれもこれも絵のようにうつくしい。見たところ、平和そのものである。

だが、波浪は、なんとなしに、怒った表情に見える。船の舳を噛む白いしぶきが、いまにも檣のうえまでとびあがりそうに見える。どんと船腹にぶつかった大きなうねりが、その勢いで汽船をどしんと空中へ放りあげそうに見える。なにか、海は感情を害しているらしいのだ。

こんな噂もある。

太平洋に、やがて空前の大海戦がはじまるだろう。それは遅くとも、あと半年を待たないだろう。太平洋をはさんだたくさんの国々が、二つに分れ、そしてこの猛烈な戦闘が始まるのだ。そのとき悪くすると、遠く大西洋方面からも大艦隊が馳せさんじて、太平洋上で全世界の艦隊が砲門をひらき、相手を沈めるかこっちが沈められるかの決戦をやることになるかもしれない。そうなると、太平洋というそのおだやかな名は、およそ縁どおいものとなり、硝煙と、破壊した艦隊の漂流物と、そしておびただしい血と油とが、太平洋一杯を埋めつくすだろう。そういう噂が、かなりひろく伝わっているのだ。

太平洋が、ついにそのおだやかな名を失う日が来るのを嫌って、それで怒っているのかもしれない。

実をいえば、世界各国の汽船は、いまやいつ戦争が勃発するかわからないので、びくびくもので太平洋を渡っている有様だった。

海野十三の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本