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TORENDIA

石を投ぐるもの

本文約4,000字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

山手線で二人の子を連れた母親の背中の赤子が圧死した事件について、検事局が母親を過失致死罪で起訴した問題を論じる。本作は、交通地獄という社会状況下での不幸な災難を法的処罰の対象とすることの矛盾を指摘する。責任を負うべきは運輸省や厚生省の怠慢であると訴え、個々の生活を軽視し民法上の無能力と刑法上の責任能力の間で翻弄される婦人の地位や、真に民主的な司法のあり方について鋭く考察を綴る。

宮本百合子

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去る十二月十九日午後一時半から二時の間に、品川に住む二十六歳の母親が、二つの男の子の手をひき、生れて一ヵ月たったばかりの赤ちゃんをおんぶして、山の手電車にのった。その時刻にもかかわらず、省線は猛烈にこんで全く身動きも出来ず、上の子をやっと腰かけさせてかばっていた間に、背中の赤ちゃんは、おそらくねんねこの中へ顔を埋められ圧しつけられたためだろう、窒息して死んだ。

この不幸な出来ごとを、東京検事局では、「一般のお母さんへの警告」として、過失致死罪として起訴した。殺人電車、赤ちゃん窒息という見出しで新聞はこの事件を報じた。そして、この不幸は母親ばかりの責任ではなく、我もろとも十分に知りつくしている昨今の東京の交通地獄の凄じさに対して、熱意ある解決をしない運輸省の怠慢について、注意を喚起した。

世間の輿論は、不幸な母親由紀子さんに同情を示し、結局、東京検事局は起訴猶予とした。そして、忙しくて乏しい歳末の喧騒にまぎれて、この事件は忘れられ、今日、私たちは、その事件のおこった当日と大して変りない暴力的交通状態の下に暮しているのである。

新聞記事の出た前後、検事局の態度にあきたりない投書が、どっさりあった。この一事件は、猶予という形で落着したのであったが、考慮ある人々は、この一事件が暗示しているところが、どんなに深刻であるか、今日なおしばしば思いめぐらしているであろうと思う。

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