くろがね天狗
本文約8,500字 ・ 読了時間 約18分
あらすじ(AIが作成しました)
江戸の町に辻斬りを繰り返す謎の「くろがね天狗」が現れる。旗本の亡友の遺児であり、かつて失恋し出奔した高松半之丞の行方を追う岡引の虎松は、怪人の正体と殺人鬼の影を追ううちに、機械人間を操る半之丞と、彼を討とうとするお妙の死闘を目の当たりにする。やがて事件は幕を閉じ、天狗は姿を消すが、山中に消えた行方を探り当てた虎松の脳裏には、二人と機械人間が奥深くで朽ち果てていく光景がいつまでも焼き付いていた。
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師走三日
岡引虎松は、師走の三日をことのほか忌み嫌った。
師走の三日といえば、一年のうちに、僅か一日しかない日であるのに、虎松にとってはこれほど苦痛な日は、ほかに無かったのであった。そのわけは、旗本の国賀帯刀の前に必ず伺候しなければならぬ約束があったからである。
その年も、まちがいなく師走に入って、三日という日が来た。その頃、この江戸には夜な夜な不可解なる辻斬が現れて、まるで奉行も与力もないもののように大それた殺人をくりかえしてゆく。虎松も岡引の職分として、その辻斬犯人を探すためにたいへん忙しい思いをしていて、一日は愚か一刻さえ惜しまれるのであったが、師走の三日ばかりは、何が何としても国賓帯刀の門をくぐらないでは許されなかった。
「おう、虎松か、よう参ったのう。それ、近こう近こう」
頭に半白の霜を戴いた帯刀は、胴丸の火鉢の縁を撫でまわしながら、招かんばかりに虎松に声をかけた。――虎松はじっと一礼して、二、三尺近よっては平伏をした。
「毎年大儀じゃのう。さて、今年の報告にはなにか確実な手懸りの話でも出るかと、楽しみにいたし居ったぞ。さあ、どうじゃどうじゃ」
虎松は一旦あげた面を、へへッとまた畳とすれすれに下げた。
「まことに以て面目次第も御座りませぬが、高松半之丞様御行方のところは、只今もって相分りませぬような仕儀で……」
「なに、この一年も無駄骨だったと申すか……」
と、帯刀は暗然として腕を拱いた。