TORENDIA
棺桶の花嫁
海野十三
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春だった。
花は爛漫と、梢に咲き乱れていた。
時が歩みを忘れてしまったような、遅い午後――
講堂の硝子窓のなかに、少女のまるい下げ髪頭が、ときどきあっちへ動き、こっちへ動きするのが見えた。
教員室から、若い杜先生が姿をあらわした。
コンクリートの通路のうえを、コツコツと靴音をひびかせながらポイと講堂の扉をあけて、なかに這入っていった。
ガランとしたその大きな講堂のなか。
和服に長袴をつけた少女が八、九人、正面の高い壇を中心にして、或る者は右手を高くあげ、或る者は胸に腕をくんで、群像のように立っていた――が、一せいに、扉のあいた入口の方へふりかえった。
「どう? うまくなったかい」
「いいえ、先生。とても駄目ですわ。――棺桶の蔽いをとるところで、すっかり力がぬけちまいますのよ」
「それは困ったネ。――いっそ誰か棺桶の中に入っているといいんだがネ……」
少女たちは開きかけた唇をグッと結んで、クリクリした眼で、たがいの顔を見合った。あら、いやーだ。
「先生ッ――」
叫んだのは小山ミチミだ。杜はかねてその生徒に眩しい乙女という名を、ひそかにつけてあった。
「なんだい、小山」
「先生、あたしが棺の中に入りますわ」
「ナニ君が……。それは――」
よした方がいい――と云おうとして杜はそれが多勢の生徒の前であることに気づき、出かかった言葉をグッとのどの奥に嚥みこんだ。
「――じゃ、小山に入ってもらうか」
英語劇「ジュリアス・シーザー」――それが近づく学芸会に、女学部三年が出すプログラムだった。杜先生は、この女学校に赴任して間もない若い理学士だったが、このクラスを受持として預けられたので、やむを得ずその演出にあたらねばならなかった。
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