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TORENDIA

湯島の境内

本文約8,300字 ・ 読了時間 約17分

あらすじ(AIが作成しました)

冴え返る冬の夜、湯島の境内で早瀬主税と恋人のお蔦は、誰にも言えない関係を噛みしめながら束の間の時間を過ごす。職を失い世間から孤立する主税は、お蔦に対し、二人でこの先歩むことができない過酷な現実と別れを切り出す。葛藤しながらも主税の苦境を受け入れ、新たな生き方を見出そうとする女と、自らの境遇に追い詰められながらも彼女を突き放さざるを得ない男の、切なくも静かな別離の情景を描く。

泉鏡花

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湯島の境内 (婦系図―戯曲―一齣)

冴返る春の寒さに降る雨も、暮れていつしか雪となり、

仮声使、両名、登場。

上野の鐘の音も氷る細き流れの幾曲、すえは田川に入谷村、

その仮声使、料理屋の門に立ち随意に仮色を使って帰る。

廓へ近き畦道も、右か左か白妙に、

この間に早瀬主税、お蔦とともに仮色使と行逢いつつ、登場。

往来のなきを幸に、人目を忍び彳みて、

仮色使の退場する時、早瀬お蔦と立留る。

お蔦 貴方……貴方。 早瀬 ああ。(と驚いたように返事する。) お蔦 いい、月だわね。 早瀬 そうかい。 お蔦 御覧なさいな、この景色を。 早瀬 ああ、成程。 お蔦 可厭だ、はじめて気が付いたように、貴方、どうかしているんだわ。 早瀬 どうかもしていようよ。月は晴れても心は暗闇だ。 お蔦 ええ、そりゃ、世間も暗闇でも構いませんわ。どうせ日蔭の身体ですもの。…… 早瀬 お蔦。(とあらたまる。) お蔦 あい。 早瀬 済まないな、今更ながら。 お蔦 水臭い、貴方は。……初手から覚悟じゃありませんか、ねえ。内証だって夫婦ですもの。私、苦労が楽みよ。月も雪もありゃしません。(四辺をす)ちょいとお花見をして行きましょうよ。……誰も居ない。腰を掛けて、よ。(と肩に軽く手を掛ける。) 慥にここと見覚えの門の扉に立寄れば、(早瀬、引かれてあとずさりに、一脚のベンチに憩う。) お蔦 (並んで掛けて、嬉しそうに膝に手を置く)感心でしょう。私も素人になったわね。 風に鳴子の音高く、 時に、ようようと蔭にて二三人、ハタハタと拍手の音。

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