月令十二態
本文約2,400字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
一月から十二月まで、それぞれの月が持つ風情や自然の移ろい、折々の行事を描き出した作品である。四季の情景とそこに重なる人々の営みや装いを、洗練された筆致で綴る連作のような構成をとる。季節ごとの植物や気候の変化、古くからの習わしを通じて、日本の伝統的な一年間の情緒を繊細に描き出している。
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一月
山嶺の雪なほ深けれども、其の白妙に紅の日や、美しきかな玉の春。松籟時として波に吟ずるのみ、撞いて驚かす鐘もなし。萬歳の鼓遙かに、鞠唄は近く梅ヶ香と相聞こえ、突羽根の袂は松に友染を飜す。をかし、此のあたりに住ふなる橙の長者、吉例よろ昆布の狩衣に、小殿原の太刀を佩反らし、七草の里に若菜摘むとて、讓葉に乘つたるが、郎等勝栗を呼んで曰く、あれに袖形の浦の渚に、紫の女性は誰そ。……蜆御前にて候。
二月
西日に乾く井戸端の目笊に、殘ンの寒さよ。鐘いまだ氷る夜の、北の辻の鍋燒饂飩、幽に池の石に響きて、南の枝に月凄し。一つ半鉦の遠あかり、其も夢に消えて、曉の霜に置きかさぬる灰色の雲、新しき障子を壓す。ひとり南天の實に色鳥の音信を、窓晴るゝよ、と見れば、ちら/\と薄雪、淡雪。降るも積るも風情かな、未開紅の梅の姿。其の莟の雪を拂はむと、置炬燵より素足にして、化粧たる柴垣に、庭下駄の褄を捌く。
三月
いたいけなる幼兒に、優しき姉の言ひけるは、緋の氈の奧深く、雪洞の影幽なれば、雛の瞬き給ふとよ。いかで見むとて寢もやらず、美しき懷より、かしこくも密と見參らすれば、其の上に尚ほ女夫雛の微笑み給へる。それも夢か、胡蝶の翼を櫂にして、桃と花菜の乘合船。うつゝに漕げば、うつゝに聞こえて、柳の土手に、とんと當るや鼓の調、鼓草の、鼓の調。
四月
春の粧の濃き淡き、朝夕の霞の色は、消ゆるにあらず、晴るゝにあらず、桃の露、花の香に、且つ解け且つ結びて、水にも地にも靡くにこそ、或は海棠の雨となり、或は松の朧となる。山吹の背戸、柳の軒、白鵝遊び、鸚鵡唄ふや、瀬を行く筏は燕の如く、燕は筏にも似たるかな。銀鞍の少年、玉駕の佳姫、ともに恍惚として陽の闌なる時、陽炎の帳靜なる裡に、木蓮の花一つ一つ皆乳房の如き戀を含む。
五月