TORENDIA
鐵槌の音
泉鏡花
TORENDIA
鐵槌の音
本文約480字 ・ 読了時間 約1分
あらすじ(AIが作成しました)
家業に精を出す鍛冶屋を褒めた前田治脩公の治世のもと、槌音や機織りの音で活気づいていく金沢城下の朝を描き、その繁栄を喜ぶ君主の言葉で結ぶ泉鏡花の一文。
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天未に闇し。東方臥龍山の巓少しく白みて、旭日一帶の紅を潮せり。昧爽氣清く、神澄みて、街衢縱横の地平線、皆眼眸の裡にあり。然して國主が掌中の民十萬、今はた何をなしつゝあるか。
これより旬日の前までは、前田加賀守治脩公、毎朝缺すことなく旭を禮拜なし給ふに、唯見る寂寞たる墓の下に、金城の蒼生皆眠りて、彌望、極顧、活色なく、眼の下近き鍛冶屋にて、鐵槌一打の聲ありしのみ。
然るに家業出精の故を以て、これよりさき特に一個この鍛冶屋を賞し給ひしより、昧爽に於ける市街の現象日を追うて趣を變じ、今日此頃に到りては、鍛冶屋の丁々は謂ふも更なり、水汲上ぐる釣瓶の音、機を織る音、鐘の聲、神樂の響、騷然、雜然、業に聲ありて默するは無く、職に音ありて聞えざるは無きに到れり。剩へ野町、野田寺町、地黄煎口、或は鶴來往來より、野菜を擔荷ひて百姓の八百物市に赴く者、前後疾走相望みて、氣競の懸聲勇ましく、御物見下を通ること、絡繹として織るが如し。
治脩公これを御覽じ、思はず莞爾と、打笑み給ふ。時に炊烟數千流。爾時公は左右を顧み、
「見よ我が黽勉の民は他よりも命長し。」
明治三十年六月
完
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