TORENDIA
松翠深く蒼浪遥
けき逗子より
泉鏡花
TORENDIA
松翠深く蒼浪遥けき逗子より
本文約310字 ・ 読了時間 約1分
あらすじ(AIが作成しました)
夏の逗子の風物を綴った紀行文。松の緑や波の青さ、蟹や蛸、小鰺や南瓜といった味覚、そして「浪子饅頭」という名物にまつわる洒落た逸話を添える。
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櫻山に夏鶯音を入れつゝ、岩殿寺の青葉に目白鳴く。なつかしや御堂の松翠愈々深く、鳴鶴ヶ崎の浪蒼くして、新宿の濱、羅の雪を敷く。そよ/\と風の渡る處、日盛りも蛙の聲高らかなり。夕涼みには脚の赤き蟹も出で、目の光る鮹も顯る。撫子はまだ早し。山百合は香を留めつ。月見草は露ながら多くは別莊に圍はれたり。野の花は少けれど、よし蘆垣の垣間見を咎むるもののなきが嬉し。
田越の蘆間の星の空、池田の里の小雨の螢、いづれも名所に數へなん。魚は小鰺最も佳し、野郎の口よりをかしいが、南瓜の味拔群也。近頃土地の名物に浪子饅頭と云ふものあり。此處の中學あたりの若殿輩に、をかしき其わけ知らせぬが可かるべし、と思ふこそ尚をかしけれ。
大正四年七月
完
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