本文へ移動
TORENDIA

松翠深く蒼浪遥けき逗子より

本文約310字 ・ 読了時間 約1分

あらすじ(AIが作成しました)

夏の逗子の風物を綴った紀行文。松の緑や波の青さ、蟹や蛸、小鰺や南瓜といった味覚、そして「浪子饅頭」という名物にまつわる洒落た逸話を添える。

泉鏡花

速度
🎧 松翠深く蒼浪遥けき逗子より / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 1

櫻山に夏鶯音を入れつゝ、岩殿寺の青葉に目白鳴く。なつかしや御堂の松翠愈々深く、鳴鶴ヶ崎の浪蒼くして、新宿の濱、羅の雪を敷く。そよ/\と風の渡る處、日盛りも蛙の聲高らかなり。夕涼みには脚の赤き蟹も出で、目の光る鮹も顯る。撫子はまだ早し。山百合は香を留めつ。月見草は露ながら多くは別莊に圍はれたり。野の花は少けれど、よし蘆垣の垣間見を咎むるもののなきが嬉し。

田越の蘆間の星の空、池田の里の小雨の螢、いづれも名所に數へなん。魚は小鰺最も佳し、野郎の口よりをかしいが、南瓜の味拔群也。近頃土地の名物に浪子饅頭と云ふものあり。此處の中學あたりの若殿輩に、をかしき其わけ知らせぬが可かるべし、と思ふこそ尚をかしけれ。

大正四年七月

完

泉鏡花の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本