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TORENDIA

形

本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

摂津の侍大将・中村新兵衛は、猩々緋の服折と唐冠の兜を身につけ、戦場で勇名を馳せていた。ある日、主君の側腹の子である若武者から初陣の武功のためにその装束を借りたいと懇願される。新兵衛は快く応じ、自らは別の武具を纏って戦場に臨む。しかし、いつもの華やかな装束を纏った若武者が敵を圧倒する一方で、新兵衛自身は敵陣の激しい抵抗に遭い、苦戦を強いられることになる。強固な「形」を失った勇士の戦いのゆくえを描く。

菊池寛

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摂津半国の主であった松山新介の侍大将中村新兵衛は、五畿内中国に聞こえた大豪の士であった。

そのころ、畿内を分領していた筒井、松永、荒木、和田、別所など大名小名の手の者で、『鎗中村』を知らぬ者は、おそらく一人もなかっただろう。それほど、新兵衛はその扱き出す三間柄の大身の鎗の鋒先で、さきがけ殿の功名を重ねていた。そのうえ、彼の武者姿は戦場において、水ぎわ立ったはなやかさを示していた。火のような猩々緋の服折を着て、唐冠纓金の兜をかぶった彼の姿は、敵味方の間に、輝くばかりのあざやかさをもっていた。

「ああ猩々緋よ唐冠よ」と敵の雑兵は、新兵衛の鎗先を避けた。味方がくずれ立ったとき、激浪の中に立つ巌のように敵勢をささえている猩々緋の姿は、どれほど味方にとってたのもしいものであったかわからなかった。また嵐のように敵陣に殺到するとき、その先頭に輝いている唐冠の兜は、敵にとってどれほどの脅威であるかわからなかった。

こうして鎗中村の猩々緋と唐冠の兜は、戦場の華であり敵に対する脅威であり味方にとっては信頼の的であった。

「新兵衛どの、おり入ってお願いがある」と元服してからまだ間もないらしい美男の士は、新兵衛の前に手を突いた。

「なにごとじゃ、そなたとわれらの間に、さような辞儀はいらぬぞ。望みというを、はよういうて見い」と育ぐくむような慈顔をもって、新兵衛は相手を見た。

その若い士は、新兵衛の主君松山新介の側腹の子であった。そして、幼少のころから、新兵衛が守り役として、わが子のようにいつくしみ育ててきたのであった。

「ほかのことでもおりない。明日はわれらの初陣じゃほどに、なんぞはなばなしい手柄をしてみたい。ついてはお身さまの猩々緋と唐冠の兜を借してたもらぬか。あの服折と兜とを着て、敵の眼をおどろかしてみとうござる」

「ハハハハ念もないことじゃ」新兵衛は高らかに笑った。新兵衛は、相手の子供らしい無邪気な功名心をこころよく受け入れることができた。

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