TRENDIA CLASSIC

静かなる羅列

横光利一

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Q川はその幼年期の水勢をもつて鋭く山壁を浸蝕した。雲は濃霧となつて溪谷を蔽つてゐた。

山壁の成層岩は時々濃霧の中から墨汁のやうに現れた。濃霧は川の水面に纏りながら溪から溪を蛇行した。さうして、層々と連る岩壁の裂け目に浸潤し、空間が輝くと濃霧は水蒸気となつて膨脹した。

Q川を挾む山々は、此の水勢と濃霧のために動かねばならなかつた。

その山巓の屹立した岩の上では夜毎に北斗が傲然と輝いた。だが、その豪奢を誇る北斗はペルセウスの星が、刻々にその王位を掠奪しようとして近づきつゝあることには気附かなかつた。その下で、Q川は隣接するS川と終日終夜分水界の争奪に孜々としてゐた。

Q川の浸蝕する狭隘な溪谷へは人々の集団は近づいて来なかつた。それにひきかへ、S川の穏やかな溪谷には年々村落が増加した。

その国土の時代では、久しく天下に王朝時代が繁栄した。そのため、彼らの圧制は日毎に民衆の上に加はつた。

Q川は地質時代の軟弱な地盤を食ひ破つた。さうして、その河口にひとり黙々として堆積層のデルタを築き上げてゐるとき、その国土では、遂に鬱勃としてゐた民衆の反抗心が王朝に向つて突激を開始した。

民衆と王朝の激烈な争闘は続けられた。王朝はその久しい優惰のために敗北した。彼ら一党は民衆のために虐殺された。さうして、僅かに残つた数人は人目を忍んで人跡稀なQ川の濃霧の中へ逃げて来た。

彼らは武装を解いた。山々は嶮峻に彼らを守りながら季節に従つて柔かに青葉を変へた。彼らは高い山壁の傾斜層に細々とした径をつけた。さうして、彼らは溪流を望んだ岩角でひそかに彼らの逞しい子孫を産んでいつた。

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