汚ない家
本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
地震で家を失った語り手は、露路裏の洋服屋の二階を経て、貧民窟のような汚い長屋へ移り住む。紙壁で隣家のいびきも筒抜けな環境だが、語り手はプロレタリアであることの自覚や未知の来客が減る利点を挙げ、貧乏街での生活に潜む幻想的な豊かさを綴る。また、汚い家を訪れる人への罪悪感や、手紙すら書けない自身のズボラな気質と周囲への不義理について、洋服屋が体験した震災を題材にした戯曲の話を交えながら、自身の生活の実態を冷徹かつ滑稽に描く。
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地震以後家に困つた。崩れた自家へ二ヶ月程して行つてみたら、誰れだか知らない人が這入つてゐた。表札はもとの儘だ。其からある露路裏の洋服屋の汚い二階を借りた。それも一室より借れなかつた。ある日菊池師が朝早く一人でひよこつと僕の家へ来られた。二三週間した日、師は、
「君の家を書いた。」と云はれた。
「どこです。」と訊ねると、中央公論とのこと。
公論を見ると「震災余譚」と云ふ戯曲が出てゐて、舞台がそつくり僕のゐる内の洋服屋であつた。人物も洋服屋の人物そつくりで、一人の老母が出て来るがあれは僕の母らしかつた。「震災余譚」が沢正一派で天幕劇場にかかつたとき、下の洋服屋にそのことを云つて、見に行つて来てはと云ふと、喜んで行つた。しかし帰つて来てから洋服屋は失望してゐた。
「なぜか」と訊くと、
「あの芝居は私とこの洋服屋ぢやない。」と云ふ。
「いやさうだよ。」と云ふと、
「本には初音町となつてゐる。私とこは餌差町だ」と云ふ。
「なるほどね、僕は地震前に隣りの初音町にゐたから。」と云ふと、
「さうだな、間違へたのだな、失敗つた。」と云ふ。
僕が笑つてゐると、洋服屋さん。
「あれが餌差町となつてゐると、わし所のは大流行になるのだが、失敗つた。」と失敗つたを頻りに繰り返してゐた。