TRENDIA CLASSIC
病房にたわむ花
岡本かの子
1 / 3
春は私がともすれば神経衰弱になる季節であります。何となくいらいらと落付かなかったり、黒くだまり込んで、半日も一日も考えこんだりします。桜が、その上へ、薄明の花の帳をめぐらします。優雅な和やかな、しかし、やはりうち閉された重くるしさを感じます。日本の春の桜は人の眉より上にみな咲きます。そして多くは高々と枝をかざして、そこにもここにもかしこにも人を待ちうけます――時にはあまりうるさく執拗に息づまるようななやましさをして桜は私の春の至るところに待ちうけます。こんな神経衰弱者の強迫観念や憂鬱感は桜にとって唯迷惑でありましょう。しかしそれらは却って私が桜を多くめでるのあまり桜の美観が私の深処に徹し過ぎての反動かもしれません。かりに桜のない春の国を私は想像して見ます、いかに単調でありましょう。あまり単調で気が狂おう()そして日本の桜花の層が、程よく、ほどほどにあしらう春のなま温い風手は、徒に人の面にうちつけに触り淫れよう。桜よ、咲け咲け、うるさいまでに咲き満てよ。咲き枝垂よかし。
だが、まだ私は、桜花に就いての憂鬱感や強迫観念を語りやめようとするのではありません。
岡本かの子の他の作品
TRENDIA CLASSIC
愛
岡本かの子
愛
岡本かの子
TRENDIA CLASSIC
愛よ愛
岡本かの子
愛よ愛
岡本かの子
TRENDIA CLASSIC
秋雨の追憶
岡本かの子
秋雨の追憶
岡本かの子
TRENDIA CLASSIC
愛
岡本かの子
愛
岡本かの子
TRENDIA CLASSIC
汗
岡本かの子
汗
岡本かの子
TRENDIA CLASSIC
秋の七草に添へ
て
岡本かの子
秋の七草に添へて
岡本かの子
TRENDIA CLASSIC
汗
岡本かの子
汗
岡本かの子
TRENDIA CLASSIC
或る男の恋文書
式
岡本かの子
或る男の恋文書式
岡本かの子
TRENDIA CLASSIC
秋の夜がたり
岡本かの子
秋の夜がたり
岡本かの子
TRENDIA CLASSIC
或る秋の紫式部
岡本かの子
或る秋の紫式部
岡本かの子
TRENDIA CLASSIC
異国食餌抄
岡本かの子
異国食餌抄
岡本かの子
TRENDIA CLASSIC
ある男の死
岡本かの子
ある男の死
岡本かの子