TRENDIA CLASSIC

花園の思想

横光利一

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丘の先端の花の中で、透明な日光室が輝いていた。バルコオンの梯子は白い脊骨のように突き出ていた。彼は海から登る坂道を肺療院の方へ帰って来た。彼はこうして時々妻の傍から離れると外を歩き、また、妻の顔を新しく見に帰った。見る度に妻の顔は、明確なテンポをとって段階を描きながら、克明に死線の方へ近寄っていた。――山上の煉瓦の中から、不意に一群の看護婦たちが崩れ出した。

「さようなら。」

「さようなら。」

「さようなら。」

退院者の後を追って、彼女たちは陽に輝いた坂道を白いマントのように馳けて来た。彼女たちは薔薇の花壇の中を旋回すると、門の広場で一輪の花のような輪を造った。

「さようなら。」

「さようなら。」

「さようなら。」

芝生の上では、日光浴をしている白い新鮮な患者たちが坂に成った果実のように累々として横たわっていた。

彼は患者たちの幻想の中を柔かく廊下へ来た。長い廊下に添った部屋部屋の窓から、絶望に光った一列の眼光が冷たく彼に迫って来た。

彼は妻の病室のドアーを開けた。妻の顔は、花瓣に纏わりついた空気のように、哀れな朗かさをたたえて静まっていた。

――恐らく、妻は死ぬだろう。

彼は妻を寝台の横から透かしてみた。罪と罰とは何もなかった。彼女は処女を彼に与えた満足な結婚の夜の美しさを回想しているかのように、端整な青い線をその横顔の上に浮べていた。

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