TRENDIA CLASSIC

美しい村

堀辰雄

1 / 61

[#ページの左右中央]

天の気の薄明に優しく会釈をしようとして、

命の脈が又新しく活溌に打っている。

こら。下界。お前はゆうべも職を曠うしなかった。

そしてけさ疲が直って、己の足の下で息をしている。

もう快楽を以て己を取り巻きはじめる。

断えず最高の存在へと志ざして、

力強い決心を働かせているなあ。

ファウスト第二部

[#改丁]

序曲

六月十日 K…村にて  御無沙汰をいたしました。今月の初めから僕は当地に滞在しております。前からよく僕は、こんな初夏に、一度、この高原の村に来てみたいものだと言っていましたが、やっと今度、その宿望がかなった訣です。まだ誰も来ていないので、淋しいことはそりあ淋しいけれど、毎日、気持のよい朝夕を送っています。

堀辰雄の他の作品