旧聞日本橋
本文約5,700字 ・ 読了時間 約12分
あらすじ(AIが作成しました)
幼少期の著者が両国橋付近の賑わいや、かつて大牢のあった小伝馬町周辺の土地にまつわる記憶を綴る。父がかつて無償で譲り受けようとした広大な土地の由来や、川開きの夜に船上から見た花火の情景、また牢屋跡地で見世物として人気を博した怪談興行の様子を描く。江戸から明治へと移り変わる東京の都市風景と、人々の心理に根ざした怪奇への関心や、懐かしい市井の営みを回想する。
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金持ちになれる真理となれない真理――転がりこんで来た金玉を、これは正当な所得ではございませんとかえして貧乏する。いまどきそんなことはないかもしれないが、私のうちがそれだった。
御維新のあとのごたごたが納まっても、なかなか細かしいことは何時までも残っていたのであろう。転がりこんで来た金玉を押返してしまった人たちが、ある日こんなことをいっていた。
「たいした土地になった。」
「だからとっておおきになればいいのに。」
それは小伝馬町に面した大牢の一角を、無償で父にくれようといった当時のことを母が詰ったのだ。
丁度首斬り場のあたりだったというところの柳の木が、厠の小窓から見える古帳面屋の友達のうちから帰って来て、あたしが話したつづきからだった。
「西島屋のならびをずっとくれるといったのだが、おら不快だからな。」
「お父さんは欲がないから、断ってしまったのだとお言いなのだよ。今じゃたいした土地なのにねえ。」
母は、土一升金一升のまんなかで、しかもめぬきの土地の角地面の地主さんになれなかった怨みを時たまこぼす。
「あすこはな、不浄場といってたが、悪い奴ばかりはいないのだ。今と違ってどんなに無実の罪で死んだものがあるかしれやしない。おれは斬罪になる者の号泣を聞いているからいやだ。逃れよう、逃れようという気が、首を斬られてからも、ヒョイと前へ出るのだ。しでえことをしたもんで、後から縄をひっぱっている。前からは、髷をひっぱって、引っぱる。いやでも首を伸す時に、ちょいとやるんだ。まあ、あんな場処はほしくねえな。」