TRENDIA CLASSIC

旧聞日本橋

長谷川時雨

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金持ちになれる真理となれない真理――転がりこんで来た金玉を、これは正当な所得ではございませんとかえして貧乏する。いまどきそんなことはないかもしれないが、私のうちがそれだった。

御維新のあとのごたごたが納まっても、なかなか細かしいことは何時までも残っていたのであろう。転がりこんで来た金玉を押返してしまった人たちが、ある日こんなことをいっていた。

「たいした土地になった。」

「だからとっておおきになればいいのに。」

それは小伝馬町に面した大牢の一角を、無償で父にくれようといった当時のことを母が詰ったのだ。

丁度首斬り場のあたりだったというところの柳の木が、厠の小窓から見える古帳面屋の友達のうちから帰って来て、あたしが話したつづきからだった。

「西島屋のならびをずっとくれるといったのだが、おら不快だからな。」

「お父さんは欲がないから、断ってしまったのだとお言いなのだよ。今じゃたいした土地なのにねえ。」

母は、土一升金一升のまんなかで、しかもめぬきの土地の角地面の地主さんになれなかった怨みを時たまこぼす。

「あすこはな、不浄場といってたが、悪い奴ばかりはいないのだ。今と違ってどんなに無実の罪で死んだものがあるかしれやしない。おれは斬罪になる者の号泣を聞いているからいやだ。逃れよう、逃れようという気が、首を斬られてからも、ヒョイと前へ出るのだ。しでえことをしたもんで、後から縄をひっぱっている。前からは、髷をひっぱって、引っぱる。いやでも首を伸す時に、ちょいとやるんだ。まあ、あんな場処はほしくねえな。」

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