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TORENDIA

尼たちへの消息

本文約5,900字 ・ 読了時間 約12分

あらすじ(AIが作成しました)

日蓮聖人が安産祈願や日常の供養に対する感謝を綴った、各地の尼御前たちへの書簡を収める。哲人としての風貌を感じさせる簡潔な文章で、女性信者の信念や出産の喜びを分かち合う様子を描く。夫や子供を案じる尼たちへ、法華経の教えに基づき、生きることの尊さと現世での実践を説く書簡の数々を紹介し、時代を超えて響く慈愛に満ちた励ましの言葉と、日蓮の人間味あふれる人柄を伝える論考である。

長谷川時雨

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🎧 尼たちへの消息 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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日蓮聖人の消息文の中から、尼御前たちに對へられた書簡を拾つてゆくと、安産の護符をおくられたり、生れた子に命名したりしてゐて、哲人日蓮、大詩人日蓮の風貌躍如として、六百六十餘年の世をへだてた今日、親しく語りかけられる心地がする。もとよりこの尼御前たちは在家の尼たちであるが、送られた手紙は、文章も簡潔で實に好い。それよりもよいのは、寄進された品目をいつも頭初に書いて、感謝してゐる率直な表現だ。もとより私の見方は、文章の上から見てのことばかりだが、後に多くの文雅の士がさうした書きかたをしたのを見ると、これを學んだのでないかと思ふほどだ。文中景色を叙したのはすくないが、駿河の松野殿御返事といふ一文には、

鵞目一結、白米一駄、白小袖一、送り給び畢んぬ。抑、此山と申すは、南は野山漫々として百餘里に及び、北は身延山高く峙ちて白根が嶽につづき、西には七面と申す山峨々として白雪絶えず、人の住家一宇もなし、適、問ひくるものとては梢を傳ふ猴なれば、少も留ることなく還るさ急ぐ恨みなる哉。東は富士河漲りて流沙の浪に異ならず。かかる所なれば訪ふ人も希なるに、加樣に度々音信せさせ給ふ事、不思議の中の不思議也。

これは、建治二年十二月九日に身延から佛道の教へに答へられた長い書簡の書出しである。

おなじ松野殿へ、弘安元年五月一日に與へられたのには、

日月は地におち、須彌山はくづるとも、彼女人、佛に成らせ給ん事疑なし。あらたのもしや、たのもしや

干飯一斗、古酒一筒、ちまき、あうざし(青麩)、たかんな(筍)方々の物送り給ふて候。草にさける花、木の皮を香として佛に奉る人、靈鷲山へ參らざるはなし。況や、民のほねをくだける白米、人の血をしぼれる如くなるふるさけを、佛法華經にまいらせ給へる女人の、成佛得道疑べしや。

これは全文である。この、況や民の骨をくだける白米、人の血を絞れるごとき古酒、といふ言葉は白米が玉のやうに、白光りに光つて見える。民の骨を碎ける白米、民の骨を碎ける白米! げに有難い言葉ではないか。

この松野殿女房――後家尼御前に與へられた、も一通の消息にも身延隱棲の自然が叙されてある。

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