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TORENDIA

あるとき

本文約3,500字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

雨上がりの庭を眺めながら、遠い異国で暮らす二人の旧友に思いを馳せる。パリに住む岡田八千代から届いた絵はがきに触発され、著者は海を越えた空想の旅へと出る。かつて共に演劇を語り、笑い合った友人たちを想い、パリからモスクワ演劇祭への足を運ぶよう願ったり、ロスアンゼルスにいる田村俊子の身を案じたりする。離れて暮らす友人の面影を辿りながら、明治に生まれた女同士の絆と、互いの無事を願う切ない心情を描く。

長谷川時雨

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🎧 あるとき / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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むさしのの草に生れし身なればや

くさの花にぞこころひかるる

と口ずさんだりしたが、

「わたしの前生はルンペンだつたのかしらん。遠い昔、野の草を宿としてゐて、冷こんで死んだのかもしれない。それでこんなに家のなかにばかりゐるのかしら?」

門を一足出て、外の風にあたると、一町も千里もおんなじだと氣が輕くなつてしまふのにと、いふと、出おつくうがる性なのを知つてゐるものは手を叩いて笑つた。

今朝ふと、雨上りの草の庭を眺めてゐて、海をおもつた。それも涯しないひろい大洋が戀しくなつたのだ。

昨日のはなしの折にも、私は毎年繰返していつてゐる、秋には山へいつて、山の風に吹かれてくるのだと、今年も出來ない相談であらうことを樂しく語りながら、高原に立つて秋草を吹き靡かす初秋の風に身をまかせて、佇んでゐる自分を描き、風の香をなつかしんでゐたのだ。足を勞さないで、居ながらに風景を貪る癖からなのか、それとも、空ばかり眺めくらしてゐた太古の、前生人からの遺傳か、それこそ一足から千里も飛ぶやうな空想が、私にはなかなか役にたつ遺産で、私の心を、役の行者のやうに、雲にして飛ばしてくれる。

しかし洋の原が戀しくなつたのは、高原の風が辷りこむやうに、空想が海を走つたばかりではなかつた。私の二人の古い友達が、海のあなたに渡つて、長く歸らないことが、堪らなくさびしくなつたのだつた。

「此間あなたに小つぴどく怒られた夢を見た。いつか長い手紙を頂いて、毎日毎日友達は嬉しいなと思ひながら、手紙を書かう/\と思ひつつ段々のびたのと、あれから久しくたつて、やうかんがついたといふので、遠いとこまで足を運んだのでしたが、一度は代人でパスポートがなくてダメ、二度目は休み時間、三度目はとう/\間に合はず羊羮は洋行して歸つてしまつたので、追かけもならず、御心入れをとう/\ムダにしてしまひ、何とも申譯もないと思つてた時の夢だつたのです。元氣でゐて下さい。パリになんかベンベンとしてゐると、だんだん馬鹿になることがわかつてゐるけれど、おいそれとは歸られずに居ます。どうぞ病氣はしないで下さい。やせて返事が消えては大變だから待つてて下さい。

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