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TORENDIA

旧聞日本橋

本文約7,500字 ・ 読了時間 約16分

あらすじ(AIが作成しました)

明治十六年から二十年代の日本橋を舞台に、古き江戸の残存者層が暮らす堅気な町での日々を少女の記憶を辿りつつ綴る。大門通りという古い伝統を持つ界隈と、成金が台頭する周辺の対照的な姿、夜更けの屋台店に集う家々の様子、そして金物問屋や鉄物問屋といった商家の人々の生活を詳細に描く。旧い家柄の制約や精進日の存在、一方で新興勢力の豪奢で放縦な振る舞いを交え、移り変わる街の気風と人間の営みの機微を回想として収録する。

長谷川時雨

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あんぽんたんとよばれた少女のおぼつかない記憶にすぎないが、時が、明治十六年ごろから多く廿年代のことであり、偶然にも童女の周囲が、旧江戸の残存者層であって、新文明の進展がおくれがちであったことなど、幾分記録されてよいものであったためか、先輩の推賞を得た拙著『旧聞日本橋』の稿を、ここにつづけることをよろこびといたします。

お夜食におくれて、遅く帰って来た人のお菜に、天ぷらをとりにいった女中が、岡持のふたをあけながら、近所の金持ちの主人が、立食をしていたということを、

「お薬缶のようにテラテラ光って――」

といったので、台所に湯気をあげている銅薬缶の大きいのを見て、天ぷらやの屋台に立っていた、恰幅のいい、額の長く光った、金物問屋の旦那さんの顔を、あんぽんたんまでが思出して、一緒に笑った。

堅気な町には、出前を重な蕎麦やがあるくらいなもので、田所町に蒲焼の和田平、小伝馬町三丁目にも蒲焼の近三、うまや新道から小伝馬町三丁目通りにぬける露地に、牛肉の伊勢重があるだけだった。

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