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TORENDIA

秋の反射

本文約4,200字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

敷生村で長年浮浪者のように暮らしてきた老婆「沢や」は、衰弱を機に青年団の仙二らの奔走により、縁戚の住む柳田村へ送られることになる。村中を回って暇乞いをし、施しを求める老婆の姿を、村人たちは嫌悪と哀れみの入り混じった複雑な心境で見送る。出発前、同じく孤独な身の植村婆は、誰からも愛されずどん底を生きる老婆の去り際に言いようのない寂しさを覚え、彼女に小銭を渡し、共に最期の別れを惜しむ様子を描く。

宮本百合子

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🎧 秋の反射 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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一

田舎[#「田舎」は底本では「 舎」]では何処にでも、一つの村に一人は、馬鹿や村中の厄介で生きている独りものの年寄があるものだ。敷生村では十年ばかり前、善馬鹿という白痴がいた。女子供に面白がられたり可怖がられたりしていたが、池に溺れて或る冬死んだ。それ以来幸なことに白痴は一人も出なかった。尤も、気違いが一人いたが。――三十五になる、村ではハイカラな女であった。彼女は東京に出て、墓地を埋めて建てた家を知らずに借りて住んだ。そこで二人目の子供を産んで半月立った或る夕方、茶の間に坐っていた女がいきなり亭主におこりつけた。

「いやな人! 何故其那に蓮の花なんぞ買いこんで来たんだよ、縁起がわるい!」

亭主は働きのない、蒼い輓い顔をした小男であった。

「――俺そんなもの、買って来やしねえ」

「うそ! 壁まで蓮の花だらけだよ。この人ったら」

「買わねえよ――何云ってるんだ」

「強情張るにも程がある。ほら、ほら! そんなにあるのに無いって私をだますのか、ほら、ほら! ああ、蓮だらけだよう!」

と、彼女はおいおい泣いて亭主にかじりついた。――これが気違いになり始めだと云う噂であった。村へ帰って来ても発狂は治らなかった。然し、何かひどく工合よい機械のように、毎年毎年、年児に女や男の児を産みつづけた。村の人は愕いて居心地わるく感じていた。然し亭主がいて、皆其一隊を養っている以上別に云う程のことはない。――

村の在郷軍人で、消防の小頭をし、同時に青年団の役員をつとめている仙二が心を悩ましていたのは、お園のことや、近く迫っている役員改選期のことではなかった。沢や婆さんのことであった。

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