草の根元
本文約1,000字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
母が不在で静まり返った部屋で、書き上げた原稿の題名に頭を悩ませる主人公。孤独に沈む中、部屋の観葉植物の鉢を眺め、その草の根元に西洋の歴史的な衣装を纏った人々が暮らす空想の世界を見出す。小姓を従えた貴婦人や楽器を奏でる人々、女王の乗る馬車などが現れるその小さな世界で、主人公は靴が脱げた女性を助ける若者の姿に物語を見出し、寂しさを紛らわせるために想像の翼を広げていく心象風景を綴る。
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五時に近い日差しが、ガラス窓にうす黄色くまどろんで居る。
さっきまで、上を向いて見ると、眼の底から涙のにじみ出すほど隈なくはれ渡って、碧い色をして居た空にいつの間にかモヤモヤした煤の様な雲が一杯になってしまって居る。
桜が咲きかけて居るのに、晩秋の様な日光を見て居ると、何となくじめじめした沈んだ気になる。
暖かなので開け放した部屋が急にガランとして見えて、母が居ない家中は、どことなし気が落ちつかない。火がないので、真黒にむさくるしいストーブを見ながら、頬杖をついて、私はもう随分さっきから置いてきぼりにされた様な様子をして居る。
この頃漸々、学校の休になって、長い間かかって居たものを二三日前に書きあげたけれ共、それにつける丁度いい題に困りきって、昨夜も今もいやな思いをしつづけて居る。
書きたいだけ書いて、あとから名をつける癖のある私は、毎度こうした眼に会う。
いつもいつも物を考える時はきっとする様に、男みたいな額の角を人指し指と拇指で揉みながら、影の様にガラスの被の中で音も立てずに廻って居る時計だの、その前のテーブルの上に置いてある花の鉢だのを眺め廻す。
くすんだ様な部屋の中に、ポッツリ独りで居るのが仕舞いには辛くなって来る。
若い人達が頭にさして居る様な、白い野菊の花だの、クリーム色をみどりでくまどったキャベージに似たしなやかな葉のものや、その他赤いのや紫のや、沢山の花のしげって居る大きな鉢を見て居るうちに、それだけが一つの小さい世界の様に思えて来る。
淋しいもんで、いろいろ勝手な事を考えて自分で慰むより仕方がない。
あの草の根方に、小っぽけな人間の形をしたものが一杯居る。
それが皆、私のふだんから好いて居る西洋の何百年か前の着物を着て歩き廻って居る。
居る女達は、皆、私が絵で好いて居るゆったりと見事な身の廻りをして、小姓に長いスカートをかかげさせて、左の掌に白い羽根の扇をのせてしとやかに動いて居る。