本文へ移動
TORENDIA

惨めな無我夢中

本文約2,000字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

異性の教師と生徒の間に生じる特殊な雰囲気を、人生における創造的元素として真摯に扱うべきだと説く。田舎の女学校において、知識や人格の訓練が不十分な教師が生徒の感情を誤解し、無自覚な情事に陥る危うさを指摘する。生理的な知識だけでなく、人間としていかに崇高に生きるかという根源的な問いを持ち、自らの意志と理性を磨き上げることが、男女の健全な関係と徳義を築くために不可欠であると論じる。

宮本百合子

速度
🎧 惨めな無我夢中 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 3

ああいう事の起る第一の原因は、女性も男性も、自分の心を一応考えて見るだけ頭脳の訓練を持っていないことだと思います。偶々外的の関係は教師と生徒であっても、本能の発露は村の若衆と小娘との情事めいています。

男の先生と女の生徒との間には、同性間に見られない特殊な雰囲気の生ずることは誰でも知っていることで、その最も美しい例を私共は、聖フランシスと聖クララとの情宜、良寛の女弟子との交り等に示されています。マダム・キューリーの夫妻関係にも幾分師弟としての影響があり、グレゴリイ夫人のよい作品を今日私共が持つことが出来たのは、友人としてのイェーツが、同時に彼女のよい先生でもあったためと考えられます。男性が最もよく女性の感化を受けた時、彼は天性の最善、最美な光輝を現します。それと同じに、女性は男性の正しいよい影響を受けると、彼女の生命の一番目覚ましい発育を遂げるのです。私共は、それ故、異性の間に生れる特殊な雰囲気は、人生に大切な一種の創造的元素とし、真面目に純粋にそれを扱い、常にその内容と環境とをよりよく仕ようという努力をすてないのです。

都会には多くの女子の学校があり、生徒と教師の数も夥しいものです。けれども、相方がある程度までは異性になれていること、周囲に比較すべき文化、人材の多いこと。並に、当人達も、田舎よりは情操の訓練を受ける機会が多いため、概して軽浮な中にも敏感で、よくいえば趣味よく、悪くいえば狡く打算をもって感情を整理して行くかと思われます。

田舎では女学校などというと、知識程度の低い周囲と比較して一種の別天地です。情感の鈍い、精神の死んだ年長者達と顔をつき合わせておれば、年が若いというだけでも充分溌溂とした女性達は、確に生活が淋しく物足りないに違いない。その感傷が、当人達も自覚しない自然の力にも手伝われて、友達や教師にひどくセンチメンタルな手紙を書かせるようにもなるのでしょう。

宮本百合子の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本