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TORENDIA

小景

本文約7,200字 ・ 読了時間 約15分

あらすじ(AIが作成しました)

銀座の街を歩く主人公は、商店の飾り窓を眺めながら空想の世界に浸り、多様な人々が行き交う都会の情景を観察する。やがて主人公は、往来で懸命に品物を売るロシア人女性を見かけ、その姿に幼い頃に触れた物悲しい歌謡の記憶を重ねる。華やかな灯火が街を包み込む中、主人公は混雑する人ごみの中に消えていく白い羽毛飾りの女性の姿を見つめ、都会の孤独と人間模様を静かに描き出す。

宮本百合子

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🎧 小景 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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その街は、昼間歩いて見るとまるで別な処のように感じられた。

四方から集って来た八本の架空線が、空の下で網めになって揺れている下では、ゲートルをまきつけた巡査が、短い影を足許に落し、鋭く呼子をふき鳴しながら、頻繁な交通を整理している。

のろく、次第にうなりを立てて速く走って行く電車や、キラキラニッケル鍍金の車輪を閃かせ、後から後からと続く自転車の列。低い黒い背に日を照り返す自動車などが、或る時は雲の漂う、或る時は朗らかに晴れ渡ったその街上に活動している。

やや蒲鉾なりの広い車道に沿うて、四方に鋪道が拡っていた。

東側の右角には、派手なくせに妙に陰気に見える桃色で塗った料理店の正面。左には、充分光線の流れ込まない、埃っぽく暗い裁縫店の大飾窓。板硝子の上の枠に、ボウルドフェイスの金文字で、YAMAZAKIと読めた。

西角は、ひどく塵のたかった銀行の鉄窓と、建築にとりかかったばかりの有名な時計屋の板囲いとに、占められている。

晴やかな朝日は、そのじじむさい銀行の鉄窓の棧と、板囲いのざらざらした面とを照した。午後になると、熟した太陽の光は微に濁って向い側の料理店の柱列や、裁縫店の飾窓に反射した。一層悲しげに見える料理店の桃色の窓枠の間々には、もう新鮮さを失った飾花や、焼きざましのパイの大皿や青いペパミントのくくれた罐などがある。

鋪道には、絶え間なく男や女が歩いていた。が、どの歩調も余り悠長ではなかった。

折鞄を小脇にかかえた日本服の商人、米国風の背広を着た男達。彼等は車道のすぐ傍を、同じように落付かない洋服姿の男等が膝かけなしで俥に乗り、カラカラ、カラと鈴をならして駆けさせるのを見ないふりで、速足に前へ前へと追い抜いて行く。

女は、一目で、此界隈の者が多いのを知れた。種々な種類の彼女等は、装こそ違え、全く同じような歩きつきを持っていた。顔だけはぬけ目なく並んだ店舗の方にむけているが、足は飽きることない好奇心とは全然無関係な機械のように、足頸を実に軟くひらひら、ひらひらと、たゆみなく体を運んで行くのだ。

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