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TORENDIA

坂田の場合

本文約14,300字 ・ 読了時間 約29分

あらすじ(AIが作成しました)

中流家庭に暮らす独身男性・坂田は、父祖の財産を株などで大きく増やし、生活には困らないものの、内面には凡庸さとは別の正体不明な側面を抱えていた。ある夜、坂田のもとへ中津敏子が訪れる。かつて経済的に困窮した敏子の兄との関わりや、複雑な金銭問題を背景に、二人は深い対話と情緒的な夜を過ごす。翌朝、坂田はそれまでの自分の計画を象徴する帳簿を自ら破り捨て、新たな心境へと向かう姿が描かれる。

豊島与志雄

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坂田さん、じゃあない、坂田、とこう呼びずてにしなければならないようなものが、俺のうちにある。というのはつまり、彼自身のうちにあるのだ。

母親がまだ達者で、二人の女中を使って家事一切のことをやってくれている。家の中はこぎれいに片付き、畳や唐紙も古くなく新らしくなく、家具調度の類も過不足なくととのい、座敷の床の間にはいつも花が活けてある。中流社会の生活伝統といったものが、黴もはやさず、花も咲かせず、しっとりと落付いている恰好で、万事万端につけて、貧相な点もなく、贅沢な点もなく、野心もなく、失意もなく、まさに中庸を得ているというわけなのである。そしてこういう生活には、その背景として、父祖から伝えられてる少しの財産と、凡庸な家長とが、予想されるものである。

ところが、この二つの背景が、実は均衡がとれていなかった。

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