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TORENDIA

怪異に嫌わる

本文約4,500字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

丹波の旧家で伯父から譲り受けた一振りの刀をきっかけに、持ち主の坪井は三夜連続で不可解な幻影を見る。刀を寝室に置くと、友人にも同様の怪異が生じることから、刀の所有が原因であると確信を深める。怪異への関心からその刀を借り受けた語り手は、自らや子供たちで検証を試みるが、何の変化も起こらない。この体験を通じて、語り手は怪異を見ない子供たちの健全な精神と、現代において怪異が失われている現実を綴る。

豊島与志雄

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🎧 怪異に嫌わる / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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坪井君は丹波の人である。その丹波の田舎に或る時、伯父の家を訪れたところ、年老いた伯父は、倉からいろいろな物を持出し、広い座敷に処狭きまで置き並べて、それに風を通していた。

――君は田舎の旧家にある土蔵を知っているだろうか。壁の厚み三尺以上もあり、鉄鋲をうちつけた重い樫の扉の錠前は、二重にも三重にもなり、二階造りで、一階には窓がなく、段の高い階段を上ってゆくと、二階の正面にただ一つ、二尺四方ぐらいの小窓があるきりだ。如何に暴風雨の時でも、その中にはいれば深閑として、まるで洞窟にでもはいったよう。家人もめったにはいらず、掃除なども殆どされず、埃の積るままになっている。そして其処には、実にさまざまな物が雑然とぶちこまれている。壊れかかった家具や道具の類が堆積していたり、紋章づきの櫃や長持が並んでいたりする。鼠にとっては禁断の場所だが、往々、大蛇が住んでいることもある。この土蔵から、所謂大切なものを取出す権利は、多くは年老いてる家長の専有するところで、随って家長は、隔年ぐらいに一回、ふと思い出したように、伝承の古物を母家の座敷に持出して、土用干しをするのだ。

坪井君は、座敷に並んでるいろいろな物を、好奇の眼で見やった。その中には、幾本もの刀剣類があった。それにちょっと心惹かれて、一つ一つ引抜いては眺めているうち、奇体にこちらの気を打ってくる一振がある。だいぶ錆がきてはいるが、あやしく肌身に迫る気配がする。坪井君はそれが欲しくなって、伯父にねだった。だが、それはやめたがよかろう、と伯父は云う。幾本もあることだから、欲しければどれでも持っていって宜しいが、その刀だけはやめたがよかろう、と云って承知しない。そうなれば、猶更欲しくなるのが人情で、坪井君は遂に二日がかりで伯父を口説き、とにかく暫く貸して貰うということにして、ぬけぬけと分捕ってしまった。その時、伯父がさりげなく洩した言葉によれば、その刀はどういうわけか、昔からなるべく佩用しないようにとの言い伝えがあるのだとか。だが、そのようなこと、坪井君は別に気にも止めなかった。

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